第7話

『スーフィーの寓話』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー

「ほら吹き男と羊のしっぽ」1

 

あるところにある男がいた。男は貧しく、そのために世間から少しばかり軽んじられていると感じていた。そこで男は、毎朝、太った羊のしっぽを自分の口ひげにこすりつけ油でてらてらと光らせ、それから金持ち達の集まりに出かけて行き、こう言った。

「会食に呼ばれて出かけたんですがね。いやあ、実に結構な晩餐でした」。

言いながら、彼は「見てくれ」と言わんばかりに自分の口ひげを撫でた。「脂っこくてうまい食べ物をたらふく食べた証拠に、見てくれ、この口ひげを。これで私の言葉が真実だということが分かるだろう」。

それを聞いた彼の下腹が、無言のうちに答えた。

「いまいましい嘘つきめ。神がおまえのたくらみを暴きたまいますように!おまえのほら吹きのせいで、こちらは燃えるような苦しみを味わっているというのに!べたべたと光るおまえの口ひげを引きちぎってやりたい!身の程を知れ、物乞いめ!おまえが汚い嘘をつき、大げさに吹聴したりしなければ、世間に少しはいるだろう寛大な人々が、私を憐れんでくれるだろうに。自分を偽ることなく、正直に自分の病気を示せば、医者も治療を講じてくれるだろうに」。

口ひげに相反して、彼の下腹は抗弁した。そしてひそかに祈った。「神よ、この役立たずなほら吹きを、逆さまにひっくり返して下さい。嘘を暴いて下さい。そうすればきっとどこかのお優しいだんな様が、この私にお情けをかけて下さるでしょうから」。

下腹の祈りは聞き届けられた。助けを必要とするものの熱意は炎となり、大きな火柱となったのである。2

神は言いたもう、「放蕩の限りを尽くそうが、偶像を崇拝しようが、汝がわれを呼べばわれは汝に応えよう」。祈りながら、われ知らず泣いたことはあろうか?祈りながら、われ知らず叫んだことはあろうか?そのような祈りこそ、最後にはあなた方を、悪鬼の手から救い出すのである。

下腹が神に全てを委ねたその時、猫が一匹やって来て、羊のしっぽをくわえて走り去った。家の者は猫を追いかけたが、捕まるはずがなかった。ほら吹き男の息子は、父に叱られるだろうと思うと恐ろしくなり青ざめた。

それでもこの小さな男の子は、正直に父に告白しようと勇気を振り絞り、 - 「お父さん」、男の子は言った、「毎朝、お父さんが口ひげに塗りつけている羊のしっぽを、猫が盗んで行っちゃったよ。ぼくは一生けんめい追いかけたけれど、猫に逃げられてしまったよ」。 - 父とその仲間たちがいる目の前で、父の名誉は粉々に打ち砕かれた。

その場にいた人々は、みな驚き、それから笑った。ひとしきり笑った後で、彼らの心に同情が芽生えた。彼らはほら吹きを食事に誘った。そして彼の下腹を充分に満たし、彼の心に友愛の種を蒔いた。そしてほら吹きはと言えば、 -

正直の味を知った彼は自分を恥じ、二度と嘘はつかないと決めた。そしてそれからは、慎ましく謙虚に、正直であることに専心したのだった。

 


*1 3巻732行目から。

*2 直訳すると、「立腹した」となる。