第49話

『スーフィーの寓話』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー

「果樹園の庭師と三人組の盗人」1

 

庭師が彼の果樹園で、泥棒と思しき男達を見つけた。法学者、シャリフ2、スーフィーから成る三人組で、三人が三人とも、負けず劣らず厚かましくも悪辣な、信頼に値せぬ悪党どもだった。

庭師は考えた。「こいつら一人ひとりに、言ってやりたいことは百もある。だがあいつらの結束は固い。そして団結は力だ、それだけでも武器になる。多勢に無勢だ、たった一人で三人を相手にしても勝てっこない。まずはあいつらを互いから引き離そう。そしてそれぞれが一人になったところで、あいつらの口ひげを引っこ抜いてやる」。

そこで彼はまず手始めにスーフィーを引き離し、残る二人がスーフィーに対して敵意を持つよう策略を用いた。「ちょっとお使いを頼みますよ」、庭師は言った。「小屋の中を見てきて下さい。敷物がありますから、ご友人のために持ってきてもらえませんかね」。それから彼は、声をひそめて残る二人に吹き込んだ。

「あなたが法学者さんですか。そしてこちらが、あなたのご友人のシャリフどの。ご高名は伺っておりますよ。私らが毎日パンを安心して食べることが出来るのも、法学者の判断あってこそ。知識の翼無しには、私らは飛ぶことが出来ません。そしてあなたのご友人こそは私らを統べる素晴らしい王子どの。サイイド2と言えば、何しろ預言者の御家に連なるお人ですからな。

それにひきかえスーフィーの卑しいことと言ったら!あなた方のような貴人が、どうしてスーフィーのごとき下賤の者と交わる必要がありますか?やつがここへ戻って来たら、あなた方二人で迷わず叩き出して下さい。そのかわりこれから一週間、私の果樹園を好きにして下さって結構ですよ - 私の果樹園だって?いやいや、私の命ですよ。何しろあなた方お二人は、私にとっちゃ目の中に入れても痛くないほど大事なお客ですからな」。

庭師は彼ら二人を誘い込もうと、褒めちぎって楽しませた - ああ!人は友人を失うようなことを、軽々しく受け入れるべきではないのだが。だが彼らは、固く頑丈な棍棒を振りまわしてスーフィーを追いやった。

「犬め」、庭師は叫んだ。「庭師のおれを差し置いて、いきなりおれの果樹園に、土足で入り込むのがスーフィーの教えだとでも言うのか?ジュナイド3やバーヤズィード4が、おまえにそうしろと命じたか?一体、どこのシャイフ5からものを教わったのだ」。棍棒を目の前にちらつかされ、どうすることも出来ないスーフィーを、彼は強く撲り、打ちのめし、ほとんど半殺しにしてしまった。

「これで借りは返したことになるだろう」、スーフィーは言った。「だがおまえ達は違う。気をつけろ、かつての友よ!おまえ達は私を敵のように扱った。用心しろ、この悪党に比べれば、私の方がよほど寛大だ。私が飲まされた杯だ、おまえ達も必ずや同じ杯を飲むだろう。誰であれならず者同士には、隙間風ほど似つかわしいものは無いからな」。

さて、スーフィーを追い出すことに成功した庭師は、残る二人に対しても従前通りの策略を用いた。

「親愛なるシャリフどの」、彼は言った。「朝食に、丸パンを焼いたのですよ。ひとっ走り小屋まで行ってもらえませんかね。そして下男のカイマーズに伝えてくれませんか、ガチョウの世話をするついでに丸パンを持ってくるように」。そしてその場に残った一人に向き直った。「先生」、彼は話を切り出した。

「法学については、あなたがものすごい先生だっていうことは誰が見たって確かにその通りだと思うんですがねえ。しかしご友人のシャリフときたら!

大体、あいつの言っていることは無茶苦茶でしょう。あいつの母親があいつを身ごもるのに、どこの馬の骨と不義を働いたものか、誰にも確かめようがないんですから。あいつは預言者とアリー6のお名前を自分のお飾りにしているだけなんですよ。そして世間は、それを信じる馬鹿どもばかりときたもんだ」。庭師はもっともらしい話をでっち上げ、法学者はそれに聞き入った。そしてシャリフが戻ると、たちまち傲慢な悪党による弱い者いじめが始まった。

「分からず屋の愚か者め!」、彼は言った。「誰の招きでこの果樹園に来た?おまえは預言者の跡継ぎと言うが、その盗癖が遺産だとでも言うつもりか?ライオンの仔はライオンに似ているのが筋だろう。しかしおまえと預言者は、どう考えたってかけ離れている。どこがどう似ているのか、さあ、言ってみろ!」。

悪党が振るう棍棒に、シャリフはただあっけにとられるばかりだった。彼は法学者に言った、「これ以上、同じ水を飲むことも無くなった。これでお別れだ、だが気をつけろ。おまえは一人きりで取り残されるのだから。せいぜい、しっかり掴まることだな。太鼓のように歯を食いしばれ、殴られても黙って耐えるがいい!おまえは私がシャリフでは無いと言い、おまえの友情にふさわしくないと言う。しかしそれでも私の方が、この悪党よりもよほどましだ」。

こうして一人去り、二人去り、 - 庭師が法学者ににじり寄る。そしてその耳にささやく、「あんた、それでも法学者かね?非道い馬鹿でも、あんたを見たら驚いて恥のあまり俯くだろうよ。罪深い泥棒め、私の果樹園にずかずかと上がり込んで、何ごとも無く帰れるとでも思ったのかい?それがあんたの法解釈というやつかね。そんなお許しが出るだなんて、ワスィートにでも書かれていたかい?それともこんな質問が出ることも、ムヒートに載っていたのかい?」7

「おまえが正しい」、彼は言った。「私の負けだ。殴れ、さあ、いくらでも殴れ!友人を裏切って見捨てた者への、それがふさわしい罰というものだろう」。

 


*1 2巻2167行目より。

*2 「シャリフ」「サイイド」いずれも預言者ムハンマドの末裔を指す尊称。

*3 ジュナイドとは、バグダード出身の高名なスーフィー。西暦911年没。

*4 第30話・註1を参照。(以降、当該用語については註を省略する)

*5 第4話・註10を参照。(以降、当該用語については註を省略する)

*6 預言者ムハンマドの娘婿であり、最初期のイスラム共同体を統治した第四代にして最後のカリフ。

*7 「ワスィート」「ムヒート」いずれも中程度の辞書・辞典、総覧といった書物を指す。