現世の虜

『精神的マスナヴィー』1巻
ジャラールッディーン・ムハンマド・ルーミー

 

現世の虜

現世を動かすもの、それは欲望である。
現世の何ひとつとして欲望抜きには動かない -
ただひとつ、公正無私な愛の炎を心に燃やす者を除いては。

現世を愛する人々というのは、壁を相手に情熱を傾ける人々だ。
壁の上を、太陽の光が照らしては消えてゆく様子に一喜一憂する。
しかしその光を届ける根源に気付かず、太陽の存在にも気付かない。

壁が光を放つのではないのに、
壁はただ照らされているに過ぎないというのに。

全体を見渡し、その上で全てを愛する者と、
選り好みをし、部分のみに拘る者との間には明らかに違いがある。

部分のみに拘る者は、最後まで全体を理解することなく一生を終える。
溺れている時に、藁を掴んで助かった者はいない。

自分よりも弱いものにしがみついたところで、何になるというのか。
あるじを持たぬしもべは、自らのあるじとなるより他はない。

だがそれは不可能だ -
だから溺れている、だから救いを求めている。

考えても見よ。あなたを救える何かというのは、
あなたよりも優れている何かでなくてはならぬ。
あなたよりも劣った何かに、あなたを救えるだろうか?