医者と老人

『精神的マスナヴィー』2巻
ジャラールッディーン・ムハンマド・ルーミー

 

医者と老人

ご老人が医者に訴えた、「どうも脳の調子がおかしい、おかげで苦しくて仕方がない」。医者は答えた、「脳の調子が弱まるのは、お年を召したせいですよ」。ご老人は続けて言った、「目の前を、黒い点がちらつくのだが」。

3090. 「名高いシャイフどの、それもお年を召したせいですよ」、医者は答えた。「背中がひどく痛むのだ」、ご老人は続けて言う。「お年だからですよ、痩身のシャイフよ」、医者も続けて答える。「何を食べても腹の調子が悪くなる」、ご老人が言う。「胃腸の働きが悪くなるのも、老化が原因なのです」、医者が答える。ご老人が言う、「息をするのも苦しいのだ」。「なるほど」、医者が答える、「ぜん息ですね。年を取ると、ありとあらゆる病気にかかるようになるものです」。「ええい、この馬鹿者め」、ご老人が怒り出す。「他に言うことは何もないのか。同じ言葉ばかり繰り返しおって。医学を修めておきながら、覚えたことはそれだけか。

3095. 頭にヒビの入ったやつめ、神はいかなる病気にも、それに見合った治療を授けたもう ー おまえの知性は、今の今までそんなことも学ばずにいたのか。馬鹿め、愚かなロバめ。しっかり立つことも出来ずに、地べたに寝転んでいるだけのやつめ」。すると医者が言った。「あなたは、齢六十をとうに越されました。そうやって怒りっぽくなるのも苛々するのも、老化が原因なんですよ。体の、あちこちだとか働きだとかが全て弱まってきますからね。自制心も忍耐も、同じように弱まったというわけです」。ご老人は、たった二言を耐えることが出来ない。たちまち怒鳴り始め、一言も飲み込めずに吐き散らす。

3100. ただし、神の愛にすっかり陶酔しきった導師なら話は別だ。年を重ねるごとに知恵に満ち、「幸せな生(コーラン16章97節)」を体現する。外見上は老人でも、その内側にあるのは永遠の若さだ。具体的に、それは誰かと問われれば、預言者たち、聖者たちのことである。彼らの姿は良きもの、悪きもののいずれにも示される。彼らを妬む価値無き者どもを見よ。何故に彼らは(聖者たちを)妬むのか?いったい、彼らはどれほどの知識を、確信を持っているというのか ー でなければ、どうしてこれほどまでに深く恨み、企み、敵意をあらわにするのか。復活の日を信じ、死から生へと戻る日を信じるならば、何故に鋭い剣の上にその身を投げ出すのか。

3105. 彼(預言者たち、聖者たち)はあなたに微笑みかける。だが、それが彼の全てだなどとは思うな。あなたの見た彼が、彼の全てだなどとは思うな。彼の内なる知覚には、百の復活が隠されている。地獄も楽園も彼の部分を成している。彼は、あなたが思いつくことの全てを越えたところにおり、あなたがめぐらせる想像の届かないところにいる。あらゆる推論はやがて消え去る ー 消え去らざる推論はただ神のみ。館の扉の前に立ち、あれこれと憶測して何になろうか?それとも本当に知らないのか、この館に住まうのは誰なのかを。愚か者たちはモスクを崇めつつ、心ある者を破壊しようと試みる。

3110. 馬鹿者どもめ!神は心にこそ顕われるのだ。モスクなどたかが地上の幻、心こそが真ではないか。聖者たちの心こそが真のモスクだ。精神の指導者たちの心こそが真のモスクだ。彼らの心の奥深く、知識の宿るその場所こそ、全ての者たちにとっての崇拝の場所だ ー 神はそこに顕われる。神の人の心が悲嘆で溢れるようなことが無い限り、いつの世であっても、神のもたらす恥辱で溢れることはない。かつて預言者たちと争う人々がいた。彼らは(預言者の)体だけを見て、ただのヒトに過ぎないと考えたのだ。過去の人々の悪しき性質が、私たちの裡にある。同じ過ちを犯さずにいられる保証が、いったい何処にあるというのか?

3115. 全てのしるしが、私たちの裡にある。我らも彼らも同じと知れば、どうして「自分は救われている」、などと思えるだろうか?