盗賊と村の長者どの

『精神的マスナヴィー』2巻
ジャラールッディーン・ムハンマド・ルーミー

 

盗賊と村の長者どの

人殺しをもためらわぬ、恐ろしいグズの盗賊が、強奪を目論んである村に急襲をしかけた。盗賊は村の長者を二人ばかり捉え、手っ取り早くそのうちの一人を処刑しようした。盗賊達が彼の両手を縛りあげると、彼は叫んだ、「おお、貴公子どのよ、帝国を支えるいと高き柱よ!お尋ねします、一体どのような理由で私を殺そうというのですか?それほどまでに、私の血に渇いているというのですか?

3050. 誓って言いますが、私は貧しく、何ひとつ持たない身の上です。あなた方、私を殺したところで一文の得にもなりませんよ」。するとグズの一人が答えた、「おまえを殺し、おまえの友にその様子を見せつけ脅してやるのだ。おまえの友はすっかり怯えて、持っている金の在り処を白状するだろう」。「何をおっしゃる」、彼は言った、「あいつは、私よりもうんと貧しい男ですよ」。「ああ、あいつもそう言っているぜ」、他のグズが答えた、「ごまかしているのだ。あいつは金を持っている」。彼は言った、「それはまあ、ちょっとした見解の相違というやつですな。しかしこうなると、どちらの言うことが嘘か本当か分かりませんぞ。あいつも私も、金を持っている可能性は五分五分ですからな。どうでしょう、私よりも先にあいつを殺してみるというのは?私だってその場面を見せられ脅されたら、怯えて金の在り処を白状するかも知れませんよ」。

3055. 神のなんとお優しいこと、お情け深いこと。神はその慈愛もて、この世の、一番新しい時代へと我らをお連れ下さった。一番新しい時代とは、すなわち全歴史の最も先頭に立つ歴史の顔だ。預言者の伝承にもある通り、「時代において、我らは最後列の者である。美徳において、我らは最前列の者である」。ノアの民、フードの民を神が滅ぼしたもうたのも、我らの魂に神の慈悲を知らせんがため。彼らの破滅を見れば我らが悔悟し、神に立ち返るだろうとのご配慮だ。もしもこれが逆であったなら、滅ぼされたのが彼らではなく我らであったなら ー ああ、考えただけでもおそろしい!