暗闇でライオンを撫でる

『精神的マスナヴィー』2巻
ジャラールッディーン・ムハンマド・ルーミー

 

暗闇でライオンを撫でる

農夫が牛小屋に雄牛をつないだ。ライオンが農夫の雄牛を食べて、そのまま雄牛のいた場所に座った。夜になり、農夫は雄牛の様子を見に牛小屋へやって来た。農夫は手探りで隅の方を探した。

505. 彼はライオンの下腹を撫でた。背中や脇を、上から下まで丹念に名でさすった。ライオンは思った。「もしも明るくなったなら、彼は肝をつぶすことだろう。心臓の血が逆流することだろう。彼がこうまで大胆に私を撫でているのも、真っ暗闇の夜の中で何も見えず、私が雄牛だと思い込んでいるからこそ出来ることだ」。神は我らに告げたもう - 「おお、不注意な者よ。物事を見ぬがゆえに騙される者よ。わが名において砕け落ちたトゥールを思え1。書物(コーラン)を、もしも山に下したならば、山は切り裂かれて跡形もなく消え去ってたことだろう2

510. もしもウフドの山がわれについて知ったならば、山は噴火し、火口から血を流したことだろう」。 - あなたの父もあなたの母も、あなたにこんな話を聞かせたことがあっただろう。そしてあなたも何ひとつ疑うことなく、吟味することなく両親が語って聞かせたことをそのまま受け入れ続けてきた。盲信を捨てよ。あなたはあなた自身の力で学ばなくてはいけない。盲信という隔て無しに御方を知るようになれば、御方はその恩恵もてあなたを天の声そのものに成さしめたもうことだろう。さあ、これから聞かせる物語は盲信に関する物語だ - 盲信が招く破滅からの、身の守りとなりますように。

 


*1トゥール シナイの山。「モーセガわれらと約束した時に来て、主が語りかけたもうたとき、彼は言った、『主よ、私に見えるよう、お姿をあらわしてください』。主は言いたもうた、『いや、おまえはわしを見ることはできない。しかし、あの山を見よ。もしその場にじっと動かないなら、きっとわしを見ることができるだろう』。主は山に姿をあらわしたもうや、それを崩壊させたまい、モーセは気を失って倒れた。正気に返ったとき、彼は言った、『あなたに栄光あれ。あなたのみもとに悔い改め、最初の信者となります』(コーラン7章143節)」

*2 「もしわれらがこのコーランを山に啓示すれば、山が、みずからへりくだって神を畏れて裂けるのを汝は見るだろう。これは、おそらく人々が反省するだろうと思ってわれらが示す比喩である(コーラン59章21節)。」