奈落へ墜ちる前に

『ルーミー詩撰』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー

奈落へ墜ちる前に 1

 

守護天使たちは、常に彼を取り囲んでいた。
彼の目に見えなかっただけのこと。
それが今や姿あらわに、看守のように彼を引き摺る。
–– 犬め!立ち去れ、お前の檻へ。

怒声と棍棒で追い立てられながら、
彼は振り返った、かの聖なる存在の方へ。
秋の雨のように涙が流れる。
ささやかな希望 –– それ以外に、彼に何があっただろう?

光の領域から、かの聖なる存在の声が響く。
–– さて、何としたか。

美点のかけらも無き者よ、唾棄すべき輩よ。
汝は見たか、たった今ここで開かれた巻物を。
汝の悪業の数々で、黒々と染められていた。
これ以上の何を欲するのか。
何ゆえに振り返るか。
罪の上にも更なる罪を重ねようというのか。

彼は答える。

神様、あなたが一番良く知っているくせに。
たった今あなたが宣言したよりも、
百万倍も悪い罪を俺が犯したってことを。

俺がやったことそれ自体がどうというのじゃないんだ、
悪いとか悪くないとか、それ以前の問題なんだ。
従順に正しく生きるとか、反抗して過ちを犯すとか、
そういうのはどうでもいいんだ。

善悪だとか、信仰だとか、背信だとか、
努力だとか、怠惰だとか、そういうことじゃないんだ。

俺はあなたに愛されてると知っていた、
それでいて、愛を裏切った。
俺が振り返ったのはあなたの愛だ、
自分の言い訳がしたかったわけじゃない。
俺は名誉の流浪者気取りだった、
あなたは俺に散々好き勝手にやらせてくれた。
あなたはいつも気前がよかった、
俺は、あなたに頼ってばかりだった。

犯した真の罪について、彼が告白したとき、
神は天使達に命じた。

–– 戻してやれ、わが愛に決して絶望しなかったがゆえに。

われは無に帰そう、犯された罪の全てを。
その他の罪もまた同様に。

自由意志という名の炎が燃えあがるならば、
罪という名の火の粉が爆ぜるのは必定。
われは火の粉を最小限に留めよう、
聖なる炎を絶やさぬために。

火の粉が飛び散り、館が燃え上がるならばその時は、
–– われは棘もて、薔薇の木陰の証しとなそう。

 


1. 『精神的マスナヴィー』5-1815. ここに描かれた光景は、次のハディースをその題材としている:「復活の日に続く審判において、神の御前に二人の男が連れられてくる。二人とも地獄行きを命じられるが、そのうちの一人が神を振り返る。全能の神は振り返った男を再び御前に連れてくるよう天使達に告げ、なぜ振り返ったのか男に問う。『きっとあなたは私を天国にお連れくださると思っていたのに』と男が答える。それで神は、その男を天国へと連れて行く」。