『ルーミー詩撰』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー
「白川夜船」 1
長いこと、同じ町に暮らす男が今夜も眠りにつく。
眠りについてすぐに男は、全く別の町を夢に見る。
良いもの、悪いものであふれんばかりのその町で、
男は長年住み慣れた町のことなどすっかり忘れている。
「ここは私の知らない町だ、ここでは私は新参者だ」
などという思いは、男の心に露ほども浮かびはしない。
この町で生まれ育ったと思っている。
この町で、もう長いこと暮らしていると思っている、
たった一晩、夢に見ているだけのその町で。
ならば何の不思議があろう、魂が生まれ故郷を忘れ、
かつて育まれた居場所を忘れたとしても。
何の不思議があろう、雲に覆われた星のように、
この世の眠りに包まれる以前の、記憶を失ったとしても。
何の不思議があろう、町から町へと旅を続けるうちに、
砂塵にさらされて眼も曇り、魂が光を見失ったとしても。2
1. 『精神的マスナヴィー』4-3628.
2. [進化の道程]参照。「町」とは経験であり、通過点を指す。あるいはまた、通過するプロセスそのものでもある。経験を通じて魂は自らの転落を知る(あるいは「思い出す」)。それはかつての生まれ故郷である神へと帰る旅の始まりであり、また「多(分離)」から「一(統一)」への回帰でもある。