Selected Poems of Rumi
ルーミー詩撰:ジェラールッディーン・ルーミー


『ラッバイカ』1


夜、その男は一心に神を念じていた。
繰り返される賛美は、彼の唇を甘く染めた。

ー何とまあおしゃべりな男よ。
話しかける者があった。悪魔である。

ー『ラッバイカ』との返答はどこだね。
アッラー!アッラー!おまえが幾度呼んだところで、
玉座を離れて『ラッバイカ』とは仰らないじゃないか。
いつまでアッラーを呼ぶつもりだね、そんな厳しい顔をして。2,3

男はすっかり心砕かれ、あきらめて横になり眠りについた。
すると夢とも思えぬ鮮やかさで、緑のハディルが顕われた。4

ーおまえに問う、何ゆえに神への賛美をためらうか。
何ゆえに悲しむのか、かれの名を呼び続けたことを。

男は答えた。
ーいいえ、ただ『ラッバイカ』とのお返事が頂けないものですから。
開かぬ扉を前にして、立ち去るべきかと思ったまででございます。

ハディルは答えた。
ーそれは違う。聞け、あの方からの伝言だ。

おまえが『アッラー』と呼べば、
それがわれからの『ラッバイカ』である。
おまえが胸に抱く想いも嘆きも憧れも、
おまえの胸にあっておまえのものではない。
それらは全てわれよりの使いであると知れ。
おまえの畏れ、おまえの愛が、
われの好意を捉える投げ縄となる。

見なかったのか、おまえが送り届ける『アッラー』の、
ひとつひとつにわれの『ラッバイカ』が潜ませてあったのを。



2008.07.


*1『精神的マスナヴィー』3-189.
無心で神を祈るとは、神の眼前に在るということである。無心で神を祈ることそれ自体が、祈る前から用意されていた神の返答である。

*2 アッラー アラビア語でGod、神。

*3 ラッバイカ labbayka:「わたしはここにいます(英語であれば"Here am I"に相当する)」の意。

メッカ巡礼におけるイスラム教徒の祈りの成句(Talbiya:タルビーヤ)もまた「ラッバイカ」で始まる:「Labbayka Allahumma Labbayk(私は来ました、神よ、あなたのおそばに来ました)」。巡礼中、絶え間なくこの成句を繰り返すことでそれは心の中にしっかりと書き留められ、その後はどこへ向かおうとも消えることはない。

*4 ハディル ヒドル、ヒズルとも呼ばれる。語義的には「緑の男」を意味するが、様々な形をとって人の前に現れる使徒の一人と考えられている。コーランではモーセの前に現れ、暗示的な役割を果たしている。


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