第13話

『スーフィーの寓話』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー

「カズウィーンの勇者どの」1

 

さあさあ、ここでひとつ、笑い話をするとしよう。舞台はカズウィーンだ - カズウィーンの人々の、伝統と習慣を知っているか?彼らは鋭い針を使い、青い染料を用いて、その体や手、肩などに青い刺青を彫る。刺青を彫っておけば、怪我や災厄に苦しめられることがない、と彼らは信じている。そして刺青を彫るのは理髪師の仕事だ。

ある日のこと。カズウィーンの男が床屋へ行き、威勢良く注文した。 - 「おい、刺青をひとつやってくれ!とびきり上等の、うんと芸術的なやつを頼むぜ」。

「これはこれは、ご立派な旦那!何を彫りましょう?」

「吠えまくる獅子がいいな、凄まじく恐ろしい奴を一頭。おれは生まれ月の星座も獅子なのさ。獅子の刺青を彫ってくれ。染料も針もけちるなよ、たっぷり使って、真っ青にしてくれ」

「どこいらへんに彫ったらよろしいので?」

「肩のあたりだ。肩甲骨の上にちくりとひと刺し。奇麗にやってくれよ」

そこで彫師が、ぶすりと針を肩に突き刺すと、我らが勇者どの、たまらずうめき声をあげた。

「痛い、痛い。彫り師さんよ、刺青の名人さんよ。あんた、おれを殺す気か?一体、何を彫っているんだ」

「何を彫っているのか、って。獅子を彫れ、と言ったのはだんなじゃあないですか」

「そんなことは分かっている。獅子の、どのあたりを彫っているのかと訊いているんだ」

「尻尾から始めたところですよ」

「なあ、兄弟、尻尾抜きでやってくれ!尻尾と尻のせいで、息が止まるかと思ったぜ。獅子の尻に鼻の穴を塞がれてみろ、苦しいなんてものじゃあないぞ。獅子に尻尾は要らねえ、尻尾抜きでやってくれ。でなけりゃ、あんたの針が獅子を描き終わる前に、俺の心臓が止まっちまう」

そこで彫師は気を取り直し、染料をたっぷりと含ませた針を、男の肩の別の部分に - 遠慮も無く容赦も無く、無慈悲に - ぐさりと刺した。客が悲鳴をあげた。

「今度は何を彫っているんだ?!」

「獅子の耳ですよ、好い男のだんな」

「先生、頼むよ。耳など無くたってかまうものか。あんた、床屋だろう?耳なんざ切り落としちまえ。ああ、それからついでに、たてがみも短く刈り込んでやってくれ」

そこで彫師は、さらに別の部分を彫ろうと針を刺し始めた。カズウィーンの勇者どの、再び呻いて泣き声を放った。

「これで三度目だぞ。一体、今度は何を彫っているんだ」

「獅子の下腹ですよ」

「下腹抜きの獅子にしてくれよ。たかだか刺青の獅子じゃないか。ものを食うわけでもない、絵に描いた獅子に下腹は必要ないだろうが」

大いなる困惑が彫師を包み込んだ。彼は指を歯に当てて、しばらくじっと考え込んでいたが、やがておもむろに針を床へ叩き付けて言った、 − 「世界中の、どこにこんな馬鹿げた話があるものか!尻も頭も腹も無い獅子など、いるならいっぺん連れて来てみろ!神様ご自身だって、そんな獅子を創った憶えはないだろうよ!」。

教訓 - 兄弟よ、肉体がもたらす罪業から自由になるには、肉体がもたらす苦痛を耐え抜かねばならぬ。自我の奴隷となり果てた者に、一体どこの誰が敬意を払うだろうか?自我から解放された者にこそ、空も月も、太陽もその足元にひれ伏すのである。

 


*1 1巻2981行目より。