『スーフィーの寓話』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー
「ユースフと客人」1
最果ての地に住む愛すべき友人が、はるばる旅をしてユースフに会いにやって来た。彼らは幼なじみであり、お互いに子供の時分から良く知っていた。そこで思い出話という名の枕ひとつを、二人で分かち合い共にゆったりとくつろいだ。
友人は、ユースフの兄弟達の不正や妬み・そねみについて尋ねた。ユースフは言った、「譬えるなら、あれは鎖のようなもの、そして私はライオンのようなもの。鎖につないだところで、ライオンを辱めることは出来ないよ。私は、神の定めたもう運命に不満はない。首に鎖を巻き付けられようが、ライオンがライオンであることに変わりはないだろう?」。
友人に、彼の半生について語り終えるとユースフは言った、「君の番だ、友人よ。君が持ってきてくれた旅の土産は何だろう?さあさあ、見せておくれ」。
求められて客はうろたえ、すすり泣きの声をあげた。彼は言った、 -
一体どれほどの贈り物を、
君のために私が探してまわったことか!
けれど君にふさわしいと思えるような贈り物は、
結局ひとつも見つからなかった。
砂金を一粒、金鉱に持ち込んだところで何になるだろうか?
水を一滴、ウマーンの湾に持ち込んだところで何になるだろうか?
私の心、私の魂を贈り物にしたところで、
ケルマンに向かってクミンの種を蒔くようなもの、2
これほど無用で役に立たぬことも無いだろう。
比類無き君の美しさの他には、
この倉に必要な種子など何ひとつ無いのだもの。
そこで私が持ってきたもの、それはこの鏡だ。
胸の光のようなこの鏡こそ、唯一、君にふさわしい土産と考えて。
これがあれば、君は鏡の中に君の美しい顔を見ることが出来るだろう、
太陽のような君よ、大空に灯された蝋燭の炎のような君よ。
さあ、鏡を受け取っておくれ。
これが私から君への土産だ、我が目を照らす光よ。
そして鏡の中に君の顔を見る時には、
どうか思い出しておくれ、この私のことを。
- その腕の下に抱いていた鏡を、彼はそっと前に差し出した。
*1 1巻3157行目より。ユースフとは旧約聖書に登場するヤコブの息子ヨセフであり、イスラムにおける預言者の一人。
*2 「ケルマンにクミンの種を蒔く」とは、英国で言うところの「ニューハンプシャーに石炭を運ぶ」と同種の言い回しである。