『スーフィーの寓話』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー
「どちらが『王手』か」1
ティルミズの王子が、ダルカク2相手にチェスをしていた。
ところがダルカクが王子に王手を詰んだので、王子は逆上し怒りを爆発させた。
「そら、きさまの『王手』だ、持って行け!欲しければくれてやる、そら、そら!」。使用人の口から「王手!」の言葉を聞かされたことに腹を立て、傲慢な主人はチェスの駒を次から次へとダルカクの頭めがけて投げつけた。「この悪党め!」。ダルカクは頭を抱えて耐えつつ、繰り返し「お慈悲を!」と言う他は無かった。
それから王子は、彼に再び勝負するよう命じた。これも従うより他は無かった。まるで極寒の中を素っ裸で立たされたひとのように、彼の体はぶるぶると震えて止まらなかった。
二度目の勝負も王子の負けだった。だが「王手!」の言葉が聞こえるはずの瞬間が来るが早いが、ダルカクは跳び上がって部屋の隅に走った。王子の怒りを怖れ、敷物を六枚重ねてその下に潜り込み、王子の攻撃を逃れようと、手当たり次第に枕をかき集めてその中に隠れた。
「こら」、王子は言った。「おまえ、何をしている?一体、これは何の真似だ?」。「詰みました!いえ、詰まされました!いえ、詰みました!いえ、詰まされました!」、ダルカクは答えた。「ええと、その、ですから、詰みましたので詰まされました、いと高き王子様」。
*1 5巻3507行目より。
*2 宮廷に仕える小人の道化師の呼称。