第31話

『スーフィーの寓話』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー

「砂漠のアラブと、その飼い犬」1

 

今まさに死にかけている飼い犬を前に、砂漠に住むアラブの男が一人、涙を流して泣いていた。「ああ、なんて悲しいことだろう!」。そこへ乞食が通りかかった。通りすがりの乞食は涙の理由を尋ね、また何のために嘆き悲しんでいるのかを尋ねた。

男は答えた、「犬を飼っていたのだ、とても素晴らしい犬だった。ところが見てくれ、こうして道端で死にかけている。昼は私のために獲物を狩り、夜は私のために見張りを勤めてくれた犬だ。こいつは目ざとく鋭い狩人だった。盗人だって、ただの一人も寄せ付けなかった」。

「病気にでも罹っているのかい?それとも、怪我でもしたのかい?」。

「いいや。食べさせるものが何ひとつ無いんだ。それで最後の最後まで、空腹の痛みに喘いでいるのだ」。

「ああ、かわいそうに。困難と苦悩を乗り越えるのには忍耐だよ、忍耐しかない。辛抱強く忍耐するひとには、神様はきっと良いことを授けて下さるよ」。

それから、乞食はふと男に尋ねた。「なあ、誇り高き砂漠の族長どの。あんたが持っているその袋、何が入っているんだい。ずいぶんとぎっしり詰まっているようだが」。

「パンだよ」、男は言った。「他には、昨夜の食事の残りなんかも。自分の食いぶちくらいは持っておくさ、食べなくては体がやられてしまうからな」。

「あんた、どうしてそれを犬にくれてやらないんだ」。

「いやいや、そこまでするほどの愛はないよ。大体、パンひとつ買うにも金がかかる世の中で、そうそう慈善ばかりもやっていられないだろう。それでも涙を流すくらいなら出来るさ、損をするわけでもないし」。

「呪われろ!」、乞食は叫んだ。「空っぽの水袋のようなやつめ、砂漠の砂に頭から埋もれてしまえ!おまえにとっちゃパンくずの方が、涙よりも貴重なのか!」。

 


*1 5巻477行目より。