『スーフィーの寓話』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー
「『私です』と答えた男」1
ある男が、友の住まう館の扉を叩く。扉の中から友が尋ねる、「誰?」。
男は答える、「私です」。
「帰ってくれ」、友は言う。「まだ早い。私の食卓には、なまものを載せる皿はない」。 - なまものを調理するにはどうすれば良いか。別離の炎で焙るより他に無い。それ以外に、偽善からの救いの手立ては無い。今来たばかりの道を、男は悲しげに帰ってゆく。
あれから丸一年、男は別離の炎に身を焦がし続けた。そして今、再び友の住まう館の前に立っている。男が扉を叩く、敬意と畏怖を抱きつつ、不遜な言葉が唇からこぼれはしまいかと、それだけを案じながら。
扉の中から友が呼ぶ、「誰?」。
男は答える、 - 「あなたです。心の全てを占めるあなたです」。
「お入り」、友は言う、「この館に、『私』は二人も入れない。けれどあなたが私なら、さあ、お入り」。
*1 1巻3056行目より。