第44話

『スーフィーの寓話』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー

「バルフの貴公子」1

 

かの名高きバルフの貴公子、イブラーヒーム・アドハムが、玉座にゆっくりと腰を下ろしたときの出来事である。屋根の上から、夜のしじまを切り裂く鋭い雄叫びが聞こえた。次いで、宮殿の屋根をどすん、どすんと踏んで歩く大きな足音がその後に続いた。貴公子は心の中でつぶやいた、「誰かは知らぬが、大した度胸ではないか」。

そこで彼は窓から顔を出して叫んだ、「そこを行くのは誰か?私が思うに、汝ら、ヒトではないな。人外の、魑魅魍魎の類であろうか」。

するといかにも奇妙で不思議な身なりをした一群が、ひょいと屋根から頭を下へ向けて行った。「我らには、探し求めるものがあるのです。それでこうして、夜の間じゅう歩き回っております」。

「探し求める、だと?一体、何を?」。

「ラクダです。我らはラクダを探しております」。

貴公子は言った、「冗談はよせ!屋根の上でラクダを見つけた者などいないぞ」。すると彼らはこう答えた。「あなたこそ!帝国の玉座の上で神を見つけられるとお思いか?」。

それが全てだった。それ以来、再び彼を見る者はいなかった。人々の見ている世界から、彼はまるで精霊のように忽然と姿を消してしまった。いや、彼は確かに人々の目の前にいたのだが、真の彼の姿は隠されてしまったのである - 顎鬚と、ダルヴィーシュのまとう外套を除いては。

 


*1 4巻829行目より。アドハムの息子イブラーヒームは8世紀の高名な禁欲主義者・神秘主義者。バルフの出身。彼に関する伝説はブッダをモデルにしている。神に仕えるために約束された王位を放棄した人物としてしばしば描かれる。