『スーフィーの寓話』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー
「文法学者と船頭」1
自惚れた文法学者が船に乗り込み、船頭を振り向いてこう尋ねた、「文法を学んだことはあるかね?」。「いいや」、船頭は答えた。「やれやれ」、文法学者は言った、「それなら、そなたは人生の半分を無駄に過ごしたということになるな!」。
その言葉に船頭は傷つき、深く悲しんだが、その場では何も言わずに黙していた。
ところが、漕ぎ進むうちに強い風が吹き荒れ始め、船は渦に巻き込まれた。船頭は大声で文法学者に向かって叫んだ、「おい、泳げるか?」。「いいえ」、彼は言った、「泳げません、おお、公正無私なる美しきお方よ!」。これ以上はないという見事な修辞法だった。
「なあ、文法学者さんよ」、船頭は首を振った。「あんたは、人生の全部を無駄に過ごしたってことになりそうだ。何故ってもうじきこの船は、渦に巻き込まれて沈むからさ」。
さて、ここで真に必要とされたものは何か。それは「ナフウ(nahw:文法)」ではなく「マフウ(mahw:自己滅却)」である。もしもあなたが既に「マフウ」の階梯にあるならば、その時は迷わずに海へ飛び込め。
怖れることはない。海水は、常に死者を海面へと浮かび上がらせてくれる。ただし、未だ生きている者はその限りではないが - 生者、すなわち自己に固執している者が、どうして潮流から逃れることが出来ようか。
しかしあなたが肉体の呪縛を破り、自己という属性を滅却させたとき、神的意識の海原はあなたを王冠のように最も高いところへ、覚醒の海面へと引き上げるだろう。
*1 1巻2835行目より。