昇天

『ルーミー詩撰』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー

「昇天」1

 

やがて君にも 昇天する者たちの列に加わる時が訪れるだろう
目には見えない天翔るブラークが 君を迎えにくるだろう2

人間が月面に降り立つことが昇天なのではない - 違う
昇天とは例えば 砂糖きびの蜜が結晶し 砂糖へと変化するように

人間が空を飛び回ることが昇天なのではない - 違う
昇天とは例えば 混沌の中に胚が生じ 整然と並ぶ細胞へと成長するように

 


*1『精神的マスナヴィー』4-552.

*2 昇天(ascension) アラビア語でミゥラージュ(mi’raj)。ブラーク(buraq) 想像上の生物。翼を持つ馬として描かれる。天馬。「目に見えないブラーク」とは、ここではファナー(fana):忘我の状態の象徴。ミゥラージュについては以下を参照。

ミーラージュ

元来は「はしご」を意味するアラビア語。後にはとくに「ムハンマドの昇天」の意に用いられるようになった。コーランは神を天国にいたる「はしごの主」であると述べ(70章3節)、またムハンマドを連れて聖なる礼拝堂al-masjid al-haramから遠隔の礼拝堂al-masjid al-aqsaまで夜の旅(イスラー)をしたと記している(17章1節)。

聖なる礼拝堂とはメッカのカーバを指し、遠隔の礼拝堂とは天国を意味したが、後世のハディースは遠隔の礼拝堂をエルサレムの神殿に比定し、ムハンマドは天使ガブリエルに連れられて、翼のある天馬に乗り、エルサレムに旅してそこから光のはしごを登って昇天し、神の御座にひれ伏したとしている。

ムハンマドの昇天が単なる夢か、現実の出来事かはムスリムの間でも早くから意見が分かれていたが、ミーラージュの観念はファナーにいたる霊魂高揚のシンボルとして、後のイスラム神秘主義思想に影響を及ぼした。また、ダンテの<神曲>の構想にも影響を与えたと言われる。

ラジャブ月27日の前夜が「ミーラージュ」に当たるとされ、聖夜の一つに数えられている。(「新イスラム辞典」平凡社、p474)