『精神的マスナヴィー』2巻
ジャラールッディーン・ムハンマド・ルーミー
砂漠の隠遁者
砂漠の只中にひとりの隠遁者が住んでいた。アッバーダーンの人々のよう、篤信に身を浸して過ごしていた。そこへ異国の地から旅してきた巡礼者の一団が通りかかり、痩身の隠遁者を見出した。
3790. 隠遁者の住処は乾いていた。だが彼の体は潤いをたたえていた。砂漠のシムーンから身を守る術を、彼は持っていたのだった。かように熾烈な環境でひとり過ごす彼の姿に、巡礼者たちは目を見張った。彼の孤独と、孤独をものともせぬ彼の堅固さにただ驚くばかりだったのである。彼はひとり砂の上に立ち、礼拝に没頭していた ー 水差しの水が沸騰せんばかりの灼熱の砂の上で。にも関わらず、彼はまるで草茂り花咲く庭園にいるかのごとく恍惚の表情を浮かべていた。彼を乗せるはブラークか、はたまたドゥルドゥルか。あるいは彼の両足は、刺繍に飾られた絹の敷物の上にあるのか。それともシムーンは彼にとり、そよ風よりも心地良いのか。
3795. 彼が礼拝を終え、長い瞑想に沈む間じゅう、巡礼者たちはその場に立ち止まり彼を待っていた。やがて神への潜心からデルヴィーシュが静かに醒めたとき、旅団に加わっていた者の中でも徳高く目覚めたひとりが、彼の手が、顔が、身にまとう衣が水をしたたらせ、浄めの痕跡を描いていることに気づいた。そこで彼は尋ねた、「いったい、如何にして水を得ているのか」。すると彼(デルヴィーシュ)は無言のまま両の腕を挙げてみせた ー 天から得ているのだ、と。彼(巡礼者)は言った、「欲すればいつでも得られると言うのか?!井戸も、『棕櫚の荒縄(コーラン111章5節)』も無しに?!
3800. ああ、教えと導きのスルタンよ!われらの困難を取り除いてくれ。あなたの得ている経験により、われらの信仰を堅固なものとしてくれ。われらの腰に巻き付いた不信の帯を断ち切ってくれ」。すると隠遁者は天を眼差して言った、「神よ、巡礼者たちの祈りに応えたまえ!私は日々の糧を、いと高きところより求めることに慣れて久しい。あなたは私に、いと高きところの扉を開きたもうた。非在の領域を開け放ち、在の領域へと転じたもう御方よ、あなたは私に、糧と『約束されたもの(コーラン51章22節)』を示したもうた」。
3805. 彼がそう祈祷すると、見る見るうちに美しい雲が現れた。まるで水を運ぶ象のような ー 次の瞬間には、革袋をひっくり返したかのように雨を降らせ始めた。雨水はあらゆる溝と穴を満たし、巡礼者たちは揃って水袋の口を開いた。たちまち水袋は一杯になったが、雲はなおも涙を流してやむことがなかった。眼前に繰り広げられる驚異に、一団のうちひとりの者の、腰に巻きついていた不信の帯が断ち切られた。その他の、ある者たちの確信は否応無く増した ー 真正なる道へと最も良く導きたもうは神である ー
3810. そして残りの、ある者たちは何を見ても目覚めることなく、酸く固く、永遠に熟すことがなかった。これにて談話を終える。
(『精神的マスナヴィー』2巻・了)