『精神的マスナヴィー』2巻
ジャラールッディーン・ムハンマド・ルーミー
アヒルに育てられたカモの仔の話
あなたはカモの仔、だがあなたを育てたのは誰かに飼われたアヒルだった。あなたは、家禽の羽の庇護の下に育てられた。あなたの母は海を住処とするカモだが、あなたの乳母は地を住処とし、乾いた土をこよなく愛する。あなたの中には、海を恋い慕う心は残っているだろうか ー あなたの魂はその思慕を、あなたの母から受け継いでいるはずだが。翻って乾いた土を好ましく思う気持ちは、あなたの乳母から受け継いだもの。乳母を去れ、今となっては、彼女は良き助言者足り得ないだろうから。
3770. 乳母から立ち去れ、彼女には彼女の住処 ー 乾いた土 ー がある。そして前へ進め。カモの仔ならばそれらしく海を目指せ。自らの魂の、真の住処を目指せ。たとえ母が水の恐ろしさを語って聞かせたとしても躊躇するな。急ぎ海を目指し、海に身を任せよ。あなたはカモの仔、乾いた地でも濡れた海でも生きられる者。あなたは飼いならされた家禽ではない、悪臭を放つ鳥小屋を住処とする者ではない。知れ、あなたは王なのだということを、いと高き書物において、「われらはアダムの子らを貴ぶ(コーラン17章70節)」と謳われた者だということを。ためらわず地を去り、海に踏み込め、「陸にも海にも(コーラン17章70節)」運ばれゆく者よ。魂においてあなたは海に運ばれゆく者 ー 肉体においては、かつて陸に置き去りにされた者であろうとも。あなたはその両の足を、思うままにどこへなりとも運べ。あなたが海原へ漕ぎ出るのも、あなたが大地を駆け巡るのも、心を自由にはばたかせるのも、全ては神がそうお造りになられたがゆえ。
3775. 天使は陸に近づかず、獣は海を知ることもない。だがあなたは、獣の肉体を宿とする精神の天使。だからこそ、陸も海も ー 天さえも ー 自由に往来できるのだ。それゆえ、神の啓示を気高き心で受け取る者があなたと「同じただの人間(コーラン18章110節)」の外見を持つ者であっても不思議はない。塵のごときその体は地上へ落ちたとしても、その魂は最も高く飛翔し天球を旋回し続けている。年若き友人たちよ、我らはみな水鳥である ー 我らの交わす言葉の、全てを海は知っている。
3780. 海は我らのスライマーン、我らは彼と知己を得た鳥。スライマーンの名において、我らは永遠へと足を踏み入れる。スライマーンと共に海へ飛び込め。水はダーウード(ダビデ)のごとく、百の輪を作って差し出すだろう。スライマーンは我ら皆の眼前にいる。しかし妬心がその魔術もて我らの目を閉ざし、我らの心を閉ざしている。愚かさと怠慢、自惚れが我らを覆い、故に我らは彼を疎ましき者と看做す ー すぐ傍にいるにも関わらず!喉が渇いている者が、雷鳴をうるさく感じるのと同じこと、雷鳴の後に続くのは幸福を孕んだ雨雲であるとも知らずに。
3785. その目は激流となって走る雷光に釘付けになる、天の水の甘美なる味も知らずに。そのようにして注意力の馬を、二の次たるべきものごとの方へ、あちらこちらへと全速力で走り廻らせる。その挙げ句、そもそもの因たる御方を見失うのだ。因たる御方にのみ視線を注ぐ者ならば、移ろいゆくものごとに心を奪われることなどあるだろうか?