『精神的マスナヴィー』2巻
ジャラールッディーン・ムハンマド・ルーミー
大男と少年 〜 弓兵と騎兵
3155. 男が、一人きりでいる少年を見つけた。一体、何をされるのだろう?少年は怯えて青ざめた。(大男は)言った、「落ち着け、見目麗しき子よ。おれよりも、おまえの方が優れている。おまえが上で、おれは下だ。どれほどおれが大きくみえようが、安心しろ。おれを陰萎と思え。さあ、ラクダに乗ると思っておれに乗り、何処へなりと望むままにおれを導け」。外見と中身は裏切り合う。ヒトの姿かたちをしていても、実際に中に詰まっているのは悪しき何かということもある。アードの民のごとき巨体は太鼓のようにも見え、その音は吹き荒れる嵐が枝という枝を鳴らすかのようにも聞こえる。
3160. 一匹の狐が、捉えたばかりの獲物を離し、それよりももっと大きいと思えた「獲物」の方へ ー 太鼓の方へと駆けてゆく。ところが獲物と思えたそれは、見かけは膨らんでいるものの、中身は空っぽの皮袋だ。(狐は)言う、「ええい、こんな見かけ倒しの空袋よりも、豚の方がまだましだ!」。狐は太鼓の音を怖れ、その音を聞けば慌てふためく。賢い者は太鼓の扱い方を知っている。彼らは正しく叩いて告げる ー 「沈黙せよ」と。
武装し、いかにも屈強そうな騎兵が、森の中へと馬を疾駆させてゆく。それを目にした熟練の弓兵が、恐怖して弓を引き寄せ矢をつがえる。
3165. 騎馬兵が叫ぶ、「射るな、射るな!おれは本当は弱いのだ、大きいのは体だけだ。聞いてくれ、聞いてくれ。おれの背丈で、おれを判じないでくれ。おれは戦は全く駄目なのだ。本当のところ戦場では、道端で泣いている年寄りよりも、よほどおれの方が怯えているのだ」。弓兵は彼に告げた。「通るがいい。おまえはよく話してくれた。おまえが正直に真実を語っていなければ、私は恐怖ゆえにおまえを矢で射っていたことだろう」。多くの者が戦場で命を落とした。それも、彼ら自身が手にしている武器によって。彼らはその手に剣を握り、引き換えに勇気を手放した。人間性と道具との、どちらを恃みとするべきか。たとえロスタムの武具をその身につけたところで、多くは魂を失うだろう。武器は、それを手にする者を選ぶ。ふさわしからぬ者は自らを滅ぼす。
3170. 年若き友人たちよ、剣を捨て、あなたの魂を盾とせよ。自我を捨てよ。誰であれ、自らの首を差し出す者(自我を捨て去る者)の首を、王は守り給うだろう。あなたが手にする武器の全てが、あなた自身の(利己的な)画策であり謀略であり、それはあなた自身より生じ、やがてはあなた自身の魂を傷つける。あなたの謀略が、あなたに何かしらの益をもたらしたことがあっただろうか?詐欺を捨て去れ。捨て去ることで、幸運と出会え。小手先の術が、一瞬でもあなたに果実をもたらしたことがあっただろうか?誤摩化す手口にばかり長けたところで、心からの喜びを得られただろうか?小賢しい術に別れを告げ、不断に恩恵の主を求めよ。手段手法に長けたところで、それらはあなたを祝福へと導かない。自らを愚者とし、悪運に背を向けよ。
3175. そして言え、天使たちがそうしたように ー 「神よ、私たちは何ひとつ知りません、あなたが教えたことの他には(コーラン2章32節)」と。