代表的な書体を簡単に紹介してみます。
2005年頃のめも書きをサルベージ&随時更新を加えています。最後に更新したのは2016年5月20日です。
クーフィー書体 Kufi
ナスフ、ナスヒー書体 Naskh, Naskhi
スルス書体 Thuluth
タアリーク、ナスタアリーク書体 Taliq, Nastaliq
ディーワーニー書体 Diwani
ムハッカク書体 Muhaqqaq
ルクア書体 Ruqua
画像の参照先URL Image Sources URL
クーフィー書体
クーフィーは、アラブ諸地域に紙というメディアが流入するよりも以前から、石や皮、金属な、ど様々な材質からなる多くの文物に記され、刻まれ、書かれてきた。数ある書体の中でも、最も多くの建築物の壁面を飾った書体とも言われている。
「書道の歴史」が語られる際には、何よりもまずはこれを「最も古い書体」として紹介し、起点とするのはもはや伝統の範疇である。イスラムの最初期における知の中心地、イラク南部の町の名クーファにちなんで「クーフィー」と呼ばれる書体とされているが、このクーフィーという名称の由来を解説した歴史的資料があるわけではない。「古い時代に使用されていた書体」という了解を前提として使用されている名称である。
その他の書体と比較すると、書法の制限がゆるやかなことから(書道が体系化され、書法が決定される以前の書体であることを考えれば当然とも言える)、唐草模様と組み合わせたものや、「中国迷宮」と呼ばれる幾何学的パターンなど、数多くのバリエーションが編み出されている。
「古い時代」=具体的には、アッバース朝初期に相当する8世紀頃から10世紀頃。それで「アッバース書体」と呼ばれることもある。
当初、「曲線的」と形容される書体が存在しなかったわけではないが、それはあくまでも日常的な使用の範疇に留まる草書的なものであって、訓練の上で書かれる装飾的な楷書、もしくは美的な「創作」としての書体ではなかった。9世紀から10、11世紀頃にはこの「曲線的」な要素を取り入れた「新アッバース書体」とも呼ばれる様式が現われる。
クーフィー書体の例
ナスフ、ナスヒー書体
時代が下るにつれ、諸地域の「イスラム化」・「アラブ化」が進むと、日常使いの「曲線的」な文字にも変化が訪れる。文字の需要が高まれば文字を書くための技術も高まり、書体としての諸規則が生じ、洗練されてゆくようになる。
「ナスヒー(ナスフ)」は、職業的書記や書写生の主軸となる書体。通常、細い筆で小さく、読みやすいことを是として書かれる。装飾的要素は少ないが、線の細太や、水平・垂直のバランスから生まれるフォルムは、基本的書体とされるだけあって完璧で美しい。
その他の書体で書かれたコーランを全て数えあげたとしても、ナスヒーで書かれたクルアーンの量にはかなわないとも言われている。コーランばかりではなく、シリア語やギリシャ語、ペルシャ語、インド諸語から翻訳された様々なテキストを書くのにも用いられた。古典における諸知識は、ナスヒーによって蓄積されていったとも言える。
すでに述べた通り、「曲線的」な文字は日常的な用途のために使用されていたものであったが、公文書やコーラン書写のための「書体」がほぼ確立し、そこからさらに一歩踏み込んで美的追求が始まると、ナスヒーは広範囲に渡る様々な規則を吸収して自在に変化し、地域ごとの美的感覚を大いに反映させた書体となった。結果、例えばトルコのシャープなナスヒーを読み慣れた者の目には、インドやパキスタンの丸みを強調したナスヒーは読み難く映るかもしれない(もちろん、その逆もあり得る)。
ナスヒーはその後のスルスやライハーニー、ムハッカクといった装飾的書体に共通の分母と呼べるかもしれない。
ナスフ、ナスヒー書体の例
スルス書体
al Aqlam al Sitta (as Sitta), 「六本の筆」と言われる正統六書体のひとつで、「三分の一」と名付けられている。ウマイヤ朝(7世紀)の頃から書かれ出し、9世紀には完成 したと言われるが、実際に最も盛んに書かれたのは10-11世紀頃から。
ナスヒー書体をもとに、クルアーンの章句やその他の成句などを美術的に書くために特に開発された書体で、文章を書くのにはあまり用いられることはないが、 文字を横方向だけではなく上下に配することで、円形、楕円形、その他さまざまなアウトラインを持つオーナメント的な作品に仕上げられることが多い。
水平線と垂直線、細い部分と太い部分、またカーブはあくまでも深く、直線はあくまでもまっすぐに伸びて行くコントラストが美しい書体で、最も洗練された芸術的書体とされるが、それだけに最も厳しい法則を持つ書体であり、習得には十年単位の時間がかかると言われる。
スルス書体の例
タアリーク書体、ナスタアリーク書体
角張ったところがほとんど見られず、流れるようなカーブのみで構成されており、その他の書とは全く違う印象を与える書体。別名「書の花嫁」。ペルシャで9世紀ごろから書かれ、14世紀ごろには現在の書体が完成された。ペルシャ書体、ファールシー書体とも呼ばれるが、厳密には法則が若干違う。タアリークとは「吊るされた」もしくは「引っ張り上げられた」という意味を持つ。
ペルシャ、トルコ、パキスタン、インド等の地方で特に好まれ、宗教に関わらず多くの詩や文学作品を書くのに使用されている。
タアリーク書体、ナスタアリーク書体の例
ディーワーニー書体
オスマン帝国下で書かれた崩し文字の一種で、15世紀頃に完成している。もともとはオスマン政庁(ディーワーン)の政府文書専用に開発された書体で、当時は政庁以外での使用が許されない禁制の書体でもあった。
バリエーションも豊富で、文字と文字の間を装飾点で埋め尽くすジャリー・ディーワーニー書体は Humayuni, フマユーニー(帝国)とも呼ばれ、格調高い書体とされている。
ムハッカク書体
ムハッカク書体の例
目次に戻る
ルクア書体
「小さな紙」「メモ」と名付けられた、水平の幅が低めに設定された書体。現代アラビア語圏では、通常は手書き文字として知られている。装飾性はそれほど高くはないが、力強い印象を読み手に与える書体。
スルス書体と同じくナスヒー書体を原型として発達してきた書体だが、スルス書体とは正反対に、よりシンプルな方向へと開発された書体で、自由度が高く書き手の個性に依存する部分が多い。
画像の参照先URL
Canadian Museum of History
San Antonio Museum of Art
Louvre Museum
The National Bardo Museum
The Walters Art Museum
The Museum of Islamic Art in Berlin
United States Postal Service
The Museum of Fine Arts, Houston
Kalem Guzeli
Victoria and Albert Museum
Calligraphy Gallery, Dubai, UAE
The Metropolitan Museum of Art
The Smithsonian’s Museums of Asian Art
Colombia University
Aga Khan Museum
Philadelphia Museum of Art
World Digital Library – Library of Congress
The David Collection
Istanbul Research Institute