『預言者』より:宗教について

『預言者』
ハリール・ジブラーン

 

宗教について

今度はひとりの年老いた神官が尋ねた:
「宗教についてお話し下さい」

すると彼はそれに答えて言った:
「今日ここで私が話したことの全てが 宗教についてではなかったか」

あなたにとってそもそも宗教とは何か
およそ宗教とは全ての行為とその意図ではなかったか

しかしそれと同時に宗教とは
行為とその意図のみでは決して説明し切れぬ
「何か」ではなかったか

宗教とは
岩を刻み布を織るのにも似た
われらの「生きる」という単調な作業の合間にも
われらの魂の奥からとめどなく溢れ出す
神秘と驚異とを指すのではなかったか

信仰と行為とは切り離しようもなく
信念と職業とは切り離しようもない

あなた方はその眼前に与えられた時間を並べて

これは神のために
これは私のために
これは私の体の取り分
これは私の魂の取り分

などと振り分けることは決して出来はしない

あなた方の時間は翼
あなた方を「その次」のあなた方へと
空間から空間へと飛翔して橋渡しする

道徳を最上の衣裳とばかりに身にまとう者よ
むしろ何も身につけず裸をさらす方が害は少ない
風や太陽は 肌を裂きはせぬし穴を穿ちもしない

道徳が行為を縛るためのものでしかない者は
自らの小鳥を籠に閉じ込めている者
止まり木や金網は真の自由の歌など
決して奏ではしないというのに。

礼拝が開けたり閉めたりの窓でしかない者は
自らの魂の家を訪れたことの無い者
魂の家の窓は
夜明けから次の夜明けまで開かれているというのに。

あなたの神殿 あなたの宗教は
あなたの日々そのものにある

あなたがそこへ立ち入る時はいつも
あなたが持つものは全て持って入れ
農具も 工具も 木槌も リュートも
必要に応じて造ったものも
慰めのために造ったものも

およそ瞑想の裡にある者は
自らに課した以上の高みには昇らず
自らに課した以下の低きには墜ちず

あなた方がそこへ立ち入る時はいつも
あなた方が知る人々を全て伴って入れ

およそ礼拝の裡にある人々は
彼らが希望する以上の高みには昇らず
彼らが絶望する以下の低きには墜ちず

そしてもしもあなたに神を知る瞬間が訪れたとしても
秘密は秘密のままに 神秘の暴き手にならないように

むしろその顔をあげて見渡せば
そこにあなたは見るだろう
あなたの子供たちと戯れ給う神を
さらにその顔をあげて空を見上げれば
そこにあなたは見るだろう
雲間を歩み雷光を振り上げ雨と共に降り給う神を

降り給い 花々と微笑まれる御方を
木々に手をかざす御方を
きっとあなたは見るだろう。