『預言者』より:教えることについて

『預言者』
ハリール・ジブラーン

 

教えることについて

そのとき教師が言った:
「お話しください、教えるということについて」
そして彼は答えた:

知識とはそもそもあなた自身の裡側に備わっている
それは半ば眠りながら目覚めの時を待っている
あなた以外の誰かにできることと言えば
せいぜいが眠っている知識の存在に気付かせること

弟子たちに囲まれて寺院の壁つたいに散策する教師を見よ
彼が弟子たちに与えるものは慈しみであり、彼の信念であり
英知や知識を授けているのではない
もしも彼が正真正銘の賢者であれば
彼はあなたを彼の「英知の館」に招き入れるよりも
あなた自身の中にある「英知の館」へ、
すなわちあなたの心の入り口へと案内するだろう

天文学者は、彼の理解する宇宙についてあなたに語るだろう
だが彼の理解をあなたに与えることはできないだろう
音楽家は、宇宙にみなぎるリズムの全てをあなたに歌って聞かせるだろう
だがリズムを捉える彼の耳も、リズムを繰返す彼の声も、
あなたに与えることはできないだろう
また数学者は、距離、空間、重力などの関連についてあなたに語るだろう
だがそれを捉える彼の視点を、あなたに与えることはできないのだ

ある一人が獲得した理解の翼を、他の一人に貸すことはできない。
あなたがたの一人ひとりが、神の知識の中にたった一人立たされている。
神の知識を獲得し、宇宙を理解することにおいては、
人はみな孤独でなくてはならない。