砂漠のベドウィンと、その妻の物語

『精神的マスナヴィー』1巻
ジャラールッディーン・ムハンマド・ルーミー

 

砂漠のベドウィンと、その妻の物語

ある晩のこと。ベドウィンの女が、彼女の夫に口論をふっかけた。
話し込むうちにたがが外れたか、彼女の言葉はますます激烈になっていった。

- 「ずいぶんと長いこと食べていないから、パンの味も忘れてしまったよ。台所にある香辛料といえば、苦痛の他には嫉妬だけ。ああ、貧乏にも苦労にもうんざりだ!世間は喜び浮かれているというのに、なんだって私らばかりがこんなにも苦しまなくちゃあならないのかね」。

水瓶が無いから水も無い、飲むものと言えば私らの眼から流れる塩辛い涙ばかり。
昼の間は、焼け焦げるような太陽の熱以外に着るものもなく、
夜の間は、月の光以外に敷くものも被るものもない。

空に浮かぶまるい月をまるいパンに見立てて、
私らは、宙に向って腕を差し伸ばせるだけ差し伸ばしてむなしくあがく。
最も貧しい貧者ですら、私らの貧しさを気の毒がるだろうよ。

日が昇っても夜が更けても、一日の糧をどうするか悩まなかったことはない。
親族であろうが他人であろうが、私らを見れば、
サマリアの人がそうしたごとく私らを避けて通る。

私が誰かに、たった一握りのレンズ豆を乞おうものなら、 -
『黙って立ち去れ、死よ、災厄よ!』
『戦と贈与こそはアラブの誉れだというのに』
『そなたらときたら、アラブの名折れも甚だしい』
『まるでわれらがアラブの書に、紛れ込んだ書き損じのようだ』

- 一体、私らの戦とは何か?私らに、どう戦えというのか?
戦わずしてすでに殺されたも同然、貧窮の剣に切り刻まれ眼も眩むばかりだというのに!
一体、私らに何を贈れと?日々の糧すらままならず、絶えず乞わねばならぬ身だというのに!

空飛ぶブヨを捕まえては切り裂き、その血を啜って乾きを癒す身だというのに!
見ていてごらん - 私の生が尽きる前に、ここに客人が来ようものなら、
そいつが眠りこけている間に、間違いなく私はそいつの衣を盗み取ってやるんだから!