続)ライオン、オオカミとキツネの物語

『精神的マスナヴィー』1巻
ジャラールッディーン・ムハンマド・ルーミー

 

続)ライオン、オオカミとキツネの物語

「我」と「汝」の二元論に取り付かれた者には、何の美点も残ってはいない。誇り高い王者はそのように考えた。そして傲然とオオカミの首を刎ねたのである。それから、ライオンはキツネを振り返りこう言った、「そろそろ朝食の時間だ。キツネよ、おまえが獲物を分けてみせろ」。

「王様、比類無き王様」、キツネは地べたに頭をこすりつけるように低くお辞儀をしながら言った、「まるまると太ったこの野牛、これを朝食にお召し上がり下さい。それから昼食にはこちらの山羊を、そして残りの兎は夜食に - 向かうところ敵無しの王様!これならば、情け深くお優しい王様にはぴったりでしょう!」。

ライオンは言った、「キツネよ。正義とは何か、おまえは良く理解出来ているようだ。言ってみろ、一体、どこの誰から学んだのか」。「ああ、王様、世界一の王様」、キツネは言った、「私ゃオオカミの運命から学びました」。「良かろう」、ライオンは言った。

「おまえは、おれに誓約した。これでおまえは、おれの真の盟友となった。獲物は三つともおまえにくれてやろう、どこなりと好きなところへ持って行け。安心しろ、キツネよ。おれはこのおれに服従する者、おれに属する者を傷つけはしない。おまえはおれのもの、おれはおまえのもの。おまえを傷つけることは、おれ自身を傷つけることになる。

さあ、獲物は全部おまえのものだ - 喜べ、嬉しいだろう?楽園にでも昇るような心持ちだろう?さあ、そのまま駆けろ、駆けて天まででも行ってしまえ!卑しいオオカミの運命から、おまえは警告を受け取った。もはやおまえはキツネではなくライオンだ。そうだろう?ライオンの発する警告を理解出来る者はライオンだけだ - 友人の死を戒めとして災難を逃れた者よ。おまえを賢者と呼ばずして何と呼ぼうか?」。

キツネは無我夢中で駆けた。そして口には出さなかったが、心の中でこっそり言った、「ありがたい!ありがたい!どんな気まぐれだか知らないが、先に名を呼ばれたのがオオカミだったおかげで助かったのだ!もしもオオカミよりも先に、自分の名が呼ばれていたら、一体どうなっていたことか!『おい、キツネよ。おまえが獲物を分けてみせろ』などと言われでもしていたら - いのちがいくつあっても足りないところだったぞ!」。

- 御方には感謝せねばなるまい、先に名を呼ばれずに、後に名を呼ばれたことを。歴史を振り返ってみよ、過ぎし日々の人々を襲った災厄の数々を考えてみよ。望むならば私達は、過去に学ぶことが出来る。私達よりも先に名を呼ばれ、オオカミのごとく滅ぼされた古き日々の人々に学ぶことが出来る。そのおかげで私達は、後に名を呼ばれたキツネのように、降りかかる運命の手から私達自身を、新たな日々へと救い出すことも出来るのだ。

過去の人々を思えば、私達がいかに恵まれているかは容易に理解出来ることだ。神の預言者達が、また聖者達が、「神はあなた方を愛したもう」「神はあなた方を慈しみたもう」と私達に語りかけるのには、こうした理由もあってのこと。過去に学べ。歴史に学べ。あなたが時の権力者であるならば尚更のこと。虚しく滅んだオオカミの骨と皮を直視せよ、そこに含まれる教訓と警告を受け取れ!

ファラオはいかにして滅ぼされたのか、アードの民はいかにして滅ぼされたのか。賢い人ならば、彼らの話を一度聞いただけでたちまち理解するだろう。理解したならば、今度は学ぶことだろう、自我を制することについて、虚栄の風を制することについて。そしてもしも学ばぬ者があれば、他の誰かが、彼の破滅を目にすることになる。学ぶ者にとり、学ばぬ者の破滅は教訓と警告になろう。正しい道と誤った道の、違いを示す道しるべとなろう。