『ルーミー詩撰』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー
善なる言葉 1
母なるもの、常にその子を求めてやまぬ
根源なるもの、自らより生まれしものを追うてやまぬ
溜め池に閉じ込められた水があれば
やがて風に飲み尽くされよう
それが風なる元素の性
強く自由な魂を司るゆえに
風に飲み尽くされて水は
かつて属していた処へ
根源へと還されよう
ひとしずく またひとしずく
溜め池の軛より放たれて
風に攫われ宙を漂い
水は再び自由の身となろう
この脱獄に気づく者などありはしない
ひとしずく またひとしずく
ひそやかに行われる脱獄ゆえに
われらの魂もこれと同じ
賛美の言葉を口にするたびに
少しづつ ほんの少しづつ
吐き出された息と共に
現世という名の牢獄から放たれよう
善なる言葉を話せ 善なる言葉の香気は
神の御許にも昇りつめよう
われらの許より解き放たれて
神のみぞ知るその御許へ2
永遠の御方への最上の贈り物とは
選び抜かれた善なる言葉をまとう吐息
贈り物の後には神の恩寵がもたらされよう
慈悲深き御方はありとあらゆる恩寵もて
善なる言葉に報いたもう
そのようにして御方は
我らをして善なる言葉を紡がせたもう
既に語られた言葉に加えて
未だ語られぬ言葉を与えたもう
そのようにして善なる言葉が
絶えずわれらと神の間を循環し続けよう ––
祈祷の歓喜の根源は 神の愛に他ならぬ
子なるもの、常にその母を求めてやまぬ
生まれしもの、自らを生みし根源を追うてやまぬ
1. 『精神的マスナヴィー』1-878. 「善なる言葉( al-karim al-tayyiba )」とはムスリムの信仰告白( la ilaha illa ‘llah )を、またこれに関連してスーフィーたちが用いた賛美や賞賛を示す言語表現を指す。
2. コーラン35章10(2)節参照。
35-10. すべて栄光を求める者よ、神のみもとにこそ、あらゆる栄光がある。よきことばは神に昇り、善行は神がこれを高くかかげたもう。しかし、悪事を企(たくら)む者には厳罰が課され、その悪計は水泡(すいほう)に帰す。