『ルーミー詩撰』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー
神の工房 1
職人は工房の奥深くに隠れている。
工房の扉を開けて、中に入れ!
次から次へと運び出される、技巧を凝らした細工の数々。
見とれていると、あなたは職人を見失ってしまう。2
職人は工房の奥深くで仕事をしている。
工房の外にいたのでは、職人には出会えない。
ならば、さあ、工房の中に入れ!
無を転じて有を生ずるその工房に立ち会え。3
ファラオは、細工に心を奪われた。
それで神の工房の存在を知ることもなかった。
従って神の命ずるところを理解する機会もなかった。
職人の手によって自らを変化させることも叶わず潰えたのだ。
1. 『精神的マスナヴィー』2-759.
2. 神の御技とは、未だ見えざる意志の具現化にある。常人の眼は具現化された「実在」に注がれがちである。だが未だ見えざるものを対象とする仕事をする者は、常に「非実在」の衣をその身に纏う。
3. スーフィー達が自我の滅却( fana )を通じて目指すのは、存在する前の段階すなわち非実在( ‘ayn-i thabitah )の境地である。そこに至ることで神の本質と神の徴、意図とを切り離すことなくひとつのものとして体得する。