恩寵の法則

『ルーミー詩撰』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー

「恩寵の法則」1

 

「宗教を照らす太陽」の到来が告げられれば、
第四の天に浮かぶ太陽もおのれを恥じて顔を隠す。2

− かのひとの名がわが唇を訪れたからには、恩寵について
多少なりとも語るのがわが務めというものか。

言うが早いか、傍に控えたわが魂が衣の裾をぐいと引く。
魂よ、ヨセフの上着に漂う残り香に捕らえられたか。3

− お話しください、長い年月に渡るわれらの交わりにかけて。
どうかひとつだけでもお話しください、甘き法悦の、ほんのさわりだけでも。
お話しください、天も地も歓喜して笑い出しましょう。
知識も勇気も、目を見開き百倍にも増しましょう。

− 無茶な注文をしないでくれ、私は無我夢中で恍惚を味わったに過ぎぬ、
憂いもなく、もの思うこともなく、賛美のすべも忘れ果てて。
おのれの醒めた意識から目を逸らし、自慢げに吹聴せんがために
夢まぼろしにしがみつき続けるのは見苦しかろう。4
弟子も友も持たず、無一物と言って憚らぬかのひとを想うとき、
分別なきわが静脈は逆流し、ああ、胸がはり裂けそうだ。

さあ、これが別離の古傷、これが私の流した血。
今はもうそっとしておいてくれ、続きは別の時まで待ってくれ。

− 飢えております、滋養をください。
急いでください、時は剣のようにわれらの命を切り刻む。5
われらはスーフィー、わたしもあなたも「瞬間の息子」、
「かくかくしかじかを明日いたします」とは、われらの流儀にそぐいませぬ。6
それともあなたは、真のスーフィーではなかったか?
お手の裡にある「それ」も、時を重ねれば無に帰するばかりですぞ。

− 友の秘密が、嘘いつわりに塗れて汚されるよりはましだ。
私の話の、言葉ではなく込められた意味に耳を傾けよ。
恋人たちの秘密というものは、当事者が語ったのではなまぐさい。
語るならば昔々の物語の、寓意を借りるなどが最上だろう。7

− 隠し立てなくありのままをお話しください、物語の虚飾など取り混ぜずに。
ヴェイルを持ち上げ素顔をお見せください、語って下さい。
恋い焦がれた愛しい者と寝るときは、私めなどは上着も何もかも脱ぎ捨てますが。

− 恋い焦がれた愛しい者の素裸など、実際に目の当たりにすれば
おまえごとき、胸にも下腹にも大きな穴が開いて消え失せるだろうに。

欲するままに恩寵を求めよ、ただしおのれの身の丈をわきまえよ、
藁一本で、山を支えることはできないのだから。

世界を照らす太陽が、今よりほんの少しでも近づけば、
世界は瞬く間に燃え尽きてしまうだろう。

恩寵を求めたつもりが、混乱と災禍、流血を招くこともある。
タブリーズの太陽も然り − これ以上の詮索は無用だ。

 


*1 『精神的マスナヴィー』1-123.

*2 「宗教を照らす太陽」とはシャムス(ッディーン)・タブリーズィーを、また「完全なる人間」における神の顕現を(tajarri)を暗喩している。

*3 「わが魂」とは(『マスナヴィー』の筆記者である)フサームッディーンを指す。詩人(ルーミー)が、自らの魂と彼のそれとが神秘道において一致するものと看做していたことが表わされている。ヤコブは「ヨセフの上着の残り香」を遠く離れた場所からも感知したと伝えられている(コーラン12章94節)。精神的法悦の状態を描写した一節である。

*4 スーフィーが真に「神に酔った」状態にある時は、その口からどれほど傍若無人な言葉が漏れようとも本人には制御不可能である。

*5 「瞬間(Waqt)」とは直接的神秘体験を指す術語である。「それは未来と過去の根を断ち切る」がゆえに、鋭い剣にも喩えられる。

*6 「瞬間の息子(Ibn-l Waqt)」とは、ただ現在のみを生きる者である。この道の熟達者にとり「一瞬」は「永遠の現在」を意味する。未熟な者は、「こうありたい」と望む理想の自分の姿(すなわち幻想)ばかりを追い求める。今現在の実際の自分の姿を直視しない限り、何の益も進歩も得ることはないのだが。

*7 たとえ選ばれし者であったとしても、霊知の奥義を知らせるには –– 「神は沈黙される」がゆえに −− 象徴の幕を用いらざるをえない。あらゆるスーフィー導師がそうであったように、ルーミーもまたそれ(霊知)を部外者に明かそうと試みることの危険性を熟知していた様子がうかがえる。