愛の魔法

『ルーミー詩撰』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー

愛の魔法 1

 

愛と夢想が組み合わさるとき 生じるはヨセフのごとく美しい無数の幻影
その心地よさは ハールートとマールート2の呪術をはるかにしのぐ

愛する者の恋しい姿が すぐ目の前にたちあらわれれば
あなたは狂喜して 秘めごとのすべてを打ち明けてしまう

まるで我が子を失ったばかりの母が 墓土にとりすがり
思いの丈を 包み隠さず語りかけるかのように

嘆き悲しんだ末に くるってしまったかのように
かつて我が子であった墓土が 生きているかのように

そして彼女の心の中では いとしいあの子は確かに生きていて
今もこうして母の話に耳をかたむけている –– ことになっている

彼女はそう信じている 彼女にはそう信じられる

見よ、これが愛の描く魔法
他には何も目に入らない、何も考えられない

涙をこぼして彼女は口づける
まだ新しい墓土に何度も、何度でも

かつて彼女が いとしいあの子の顔を
土にまみれさせたことなど 一度たりともありはしなかったのに

けれど死せる者への愛は永遠には続かない
弔いの日々が過ぎるころ 嘆きの焰も燃え尽きて深い眠りにつく

こうして愛の魔法が完成する 完成すれば後は去るのみ
 –– 最後の火が消える ただ灰だけを残して

 


1. 『精神的マスナヴィー』5-3260.

2. (ハールートとマールートとは、)人類に魔法の術を教えた二人の堕天使。自分たち自身を染みひとつない清廉な存在であると決め込み、アダムに敬意を払うことを拒否したため、神は二人を地上に退けた。地上で二人は美しい女に出会い、彼女を誘惑しようと試みる。だが彼女は二人に対し、天にのぼるのに必要な力を持つコトバを教えるようせがんで譲らない。ついにそのコトバを学び取った彼女は天へとのぼり、神は彼女を Zuhrah (金星)に変容させた。来世で永劫の罰に責め続けられるよりも、現世で罪をあがなう方を選んだハールートとマールートはバビロンの井戸に幽閉されることになった。この伝説は人間の、精神と理性をめぐる寓話とも考えられるだろう。純粋に光のみの世界から自然界へ下降し、肉体の罠にはまって欲( nafs )に汚れる。だが欲に苦しむことで浄められ、最後にはかつて彼らが属していたところへと帰ってゆくのである。