『ルーミー詩撰』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー
眠りて目覚めよ 1
毎夜、あなたは
魂を肉体の檻から解き放ち
染みついた記憶の埃を
跡形もなくきれいにぬぐい去る
毎夜、わたしは
肉体の檻から解き放たれ
舞台の幕は降り
夜の帳が包み込み
私は独り
見もせず見られもせず
聴きもせず聴かれもせず
毎夜、囚人達は
己を繋ぐ牢獄の鎖を忘れ
毎夜、皇帝達は
己が手にした権力を忘れ
私は独り
悲しみもなければ駆け引きも忘れる
あの人を忘れ、この人を忘れ
他の誰かを全て忘れる
これが神秘を知る者の状態
目覚めている時でさえも
「実際には眠っているのだが」2
と、神が言い給う通り
彼は眠り続ける、昼も夜も
現世に起こる事柄については
神の御手の裡にある筆のように3
毎夜、あなたは
魂を肉体の檻から解き放ち
染みついた記憶の埃を
跡形もなくきれいにぬぐい去った後で
御手の裡に隠し持つ秘密を
魂に向けて解き放つ、ほんの少しづつ
したたり落ちる甘い雫に
魂は喜び震える、声をあげることも忘れ
己を縛る肉体の檻を忘れ
いつか、あなたは
魂を肉体の檻へと呼び戻す
審判の日の太陽が昇り4
全ての魂を 形ある世界に連れ戻す
その朝、イスラーフィールの喇叭が響き
魂は 再び肉体の檻へと繋がれて5
己の行為の重みをその肩に知る
1. 『精神的マスナヴィー』1-388.
2. コーランに登場する「エフェソスの七人の眠り人」(18章9-26節)を暗喩している。
3. 「真の信者は、神の二本の指の間に存在する」というハディースに基づく。神の顕現には二つの相対する側面がある。神は時に猛々しく(制裁と恐怖)、また時に優しい(許しと慈愛)。神秘主義者の心はいずれの側面をも等しいものとし、悲哀と、悲哀の延長線上にある歓喜を以て受け入れる状態にある。
4. 現世における生とは、審判を司る神から人間に与えられた試みであるとされる。
5. 大天使イスラーフィール(セラフィエル)の喇叭は、審判の日を知らせる合図である。喇叭の音と同時に、全ての死者の魂は生前の肉体に呼び戻されて神の御前に連れ出され、それぞれの行為を記した巻物を基に審判を受ける。
18-9. おまえは洞穴の人たちとアッ・ラキームのことを、我等のしるしの中の一つの不思議と考えるか。
18-10. あの若者たちが洞穴に避難してこう言ったときのこと。「主よ、あなたのみもとからわれわれにお慈悲を授けたまえ。われわれのすることについて正しい道を備えたまえ」
18-11. われらは、洞穴の中で彼らの耳を一撃して、何年かのあいだ聞こえなくした。
18-12. その後、われらは、どちらのがわが彼らのとどまっていた期間を正しく計算するかを知るために、彼らを呼び起こした。
18-13. 真実をもて彼らの消息を汝に語ってやろう。彼らは主を信じる若者であったが、われらはなおいっそう正しく彼らを導いた。
18-14. われらは彼らの心を強くしてやった。そのとき彼らは立って、こう言った、「われわれの主は天地の主である。われわれは主をさしおいていかなる神にも祈りはしない。そんなことをすれば、それこそ、非道を口にすることになる。
18-15. これらの人々は、神をさしおいて他の神々を選んだわれわれの同胞である。なぜ彼らは自分たちの行ないにたいする明白な証拠をもってこないのか。神にたいして嘘を捏造(ねつぞう)する者ほど悪い人間があろうか」
18-16. 「おまえたちが彼らならびに彼らが神をさしおいて崇(あが)めているものと縁を切ったからには、洞穴に避難せよ。そうすれば、主はおまえたちのためにお慈悲を広げ、おまえたちの日用に役だつものを用意してくださるであろう」……