読み下し:「クルアーンの植物」より またはこの季節になると読み返したくなる御本再び

しばらく離れていたあいだに wordpress がめちゃくちゃ面変わりしててちょっとどうしたらいいのかわからなくなっています。インターフェイス、選べないのかな。

以下にこの季節になると読み返したくなる御本の、

Preface – Maulana Syed Abul Hasan Ali Nadvi
Foreward – Dr. S.K. Jain
Introductions – Prof. A. Rahman & Dr. P.V. Sane
Author’s Note – Dr. M. I. H. Farooqi
第1章 マンナ
第2章 スギ または スィドラの樹
第3章 ヘンナ または カンファー(樟脳)
第4章 ザックーム
第5章 クルアーンに登場する果実 – ナツメヤシ、オリーブ、ぶどう、ざくろ、イチジク
第6章 イスラエルの子らの食べもの – レンズ豆、玉ねぎ、にんにく、きゅうり
第7章 クルアーンに登場するその他の植物 – タマリスク、ミスワーク、しょうが、アカシアあるいはバナナ、瓜、バジル、いばら、トゥーバ、バラ
第8章 様々な植物の部位、植物由来の産物 – 木々、果実、葉、穀物、農作物、飼料、野菜、野草、樹脂、油
補遺-I クルアーンに登場する植物の一覧
補遺-II 解説の追加および最新の研究動向について
補遺-II 聖書における、クルアーンの植物
参考書一覧
本書の書評一覧
預言者の伝承において言及のある薬用植物の一覧

を読み下したものの中から、第5章のイチジクの部分を貼っておこうと思います。合間あいまに入るわりにフォロできてないはちょっと目ざわりかもですががまんしてください。ああ! カバのルリカちゃんほしい。玄関前をそうじして場所を作ってお迎えしよう。


第5章 5. イチジク

クルアーンにおける名称:At-Tin(At-Teen アッ・ティーン)

通称:Teen(アラブ), Sekil(トルコ), Figue(フランス), Feige(ドイツ), Ficus-Carica(ラテン),  Teenah(ヘブライ), Inzhir(ロシア), Fico(イタリア), Suiko(ギリシャ), Higo(スペイン), Anjir(ペルシャ, ヒンディー, ウルドゥー, パンジャーブ, マラーティー, ベンガル), Seemai Atti(マラヤーラム), Dumur(ベンガル), Kakudumberika(サンスクリット), Anjur(カシミール), Ara(インドネシア、マレー), Wu hua go(中国), Smokva(クリー), Vijg(オランダ), Ichijiku(日本), Figueira(ポルトガル), Smoka(セルビア), Fikon(スウェーデン)

学名:Ficus carica Linn. (科名:Moraceae, クワ科)

クルアーンにおける章句:104章 イチジクの章 1節から4節

無花果とオリーブにおいて、シナイ山において、また平安なこの町において(誓う)。本当にわれは、人間を最も美しい姿に創った。・・・

クルアーンにおいて、ティーン(アッ・ティーン, イチジク)の名が言及されるのは上記の一か所のみである。しかしこのたった一か所のみの言及に、実に大きな意味が込められている。アッラーが、人間はこの地上において可能な限り最良の形態と条件をもって創造された、と、イチジク、オリーブ、シナイ山、そして聖なる町(メッカ)に誓った上で告げているのである。マウラーナ・ウスマーニー注105は、イチジクの章の宣誓においてイチジクとオリーブが挙げられているのは、事実としてどちらの果実も非常に有用であるというのがその理由であると述べている。この章句にはシナイ山に対する言及がある。預言者ムハンマド(彼の上に平安あれ)がアッラーの召命を受け、イスラームのメッセージを伝えた地である聖都(メッカ)が、この章句においては「平安なこの町」と呼ばれている。同様に、預言者モーセが召命を受けた地であるシナイ山も、ここでは聖域とその重要性を象徴している。

マウラーナ・マウドゥーディー注71は、アッラーの宣誓がなされたクルアーンの言葉としてのイチジクとオリーブは、実際にはそれらの果樹が育つ大きな果樹園を擁し、また複数の預言者が誕生した地でもあるシリアとパレスチナという二つの都市を指すものであると述べている。

マウラーナ・ハワーイーの見解注46によれば、ティーンとは現在ではダマスカスと呼ばれる都市の名称であり、また初期のエルサレムはオリーブと呼ばれていたともいう。その他の神学者の中には、ティーンとザイトゥーン(オリーブ)はアラビア北部に実在した二つの丘の名前であったと述べる者もいる。ティーンは天国のイチジクの樹を指すともされており、その葉はアダムとイヴの身体を覆うために用いられたとする意見もある。また別の見解によれば、ティーンとはノアの方舟が出土した地の名称であり、またザイトゥーンについては、ノアが放った小鳥がオリーブの小枝をくわえて戻り、大地が再び現れたことを知らせたという故事が、その重要性を示しているともされている。

マウラーナ・マジード注28,29によると、複数のウレマー(宗教学者)が、イチジクの章に言及のある植物や地名は、実際には当時の四つの宗教の重要性を指しているとする解釈を示している。すなわち、ティーンはイチジクの樹の下で天啓(ニルヴァーナ)を授かったゴータマ・ブッダを象徴している。またザイトゥーンは、オリーブの樹の下で啓示を伝えた聖キリストの宗教を意味する。トゥール(シナイ山)は明らかに預言者モーセの信仰を指しており、バラド・アルアミーン(聖都メッカ)はイスラームの宗教と、預言者ムハンマド(彼の上に平安あれ)とを表しているという。この「四宗教」説についてはアッラーマ・ユースフ・アリ注1も詳細に論じておりNote Nos. 6194, 6197, 6198、マハトマ・ブッダがニルヴァーナを会得したのはFicus indicaの樹の下であった、というのが彼の説である。

ティーンやザイトゥーンが樹木を指すにせよ、あるいはそれらの樹木が生育する地を指すにせよ、いずれにしても事実としてこの二つの名はクルアーンの章句の中で言及されている。それはこの二つが、人類の文明において重要な役割を果たしているからだろう。

イチジク、学名Ficus caricaはおそらくシリア、パレスティナ、エジプトの原産であり、当地では栽培されているものと同様、野生のものもある。高さは平均しておよそ30フィートである。年に2回、実を結ぶ。その果実は、イチジクコバチと呼ばれる昆虫のいる樹木でしかみのらない。この昆虫がいない場所では受粉が不可能なため、実を結ばないのである。新たにイチジクの植樹を始めようという地域には、イチジクコバチも移送する必要がある。さもないと、木を植えても果実はまったくみのらない。

イチジクは非常に栄養価の高い果実である。含まれる繊維もわずかなため、長期の疾患から回復し始めた人には、特に食すよう勧められる。約60パーセントの糖分とは別に、相当な量のクエン酸、リンゴ酸、加えて数種類の無機塩を含んでいる。さらに重要な酵素であるフィシンも含まれる。

その本質からして、イチジクの果実は消化の良い健康的な食品である。医学的には腎臓や膀胱の結石の除去にたいそう効果的であり、亜急性の場合であれば肝臓や膵臓の閉塞を除去するのにも役立つ。果実は痔疾や痛風の治療薬としても与えられている。乳幼児の肝臓にも有益である。あるハディース(伝承)では預言者ムハンマド(彼の上に平安あれ)が、痔疾を患っていた病人に定期的にイチジクを食べるよう勧めている。

イチジクはシリア、パレスティナ、エジプトを原産としているが、2000年以上も前にイタリアに渡るとたちまちその地に帰化し、ギリシャを含む南ヨーロッパ全域に急速に普及した。ギリシャでは、おそらくプラトンの時代における最も人気のある果物となったのがイチジクである。一説にはプラトンは大のイチジク好きであったため、人びとは彼をPhilosokosと呼ぶようになった。これはイチジク(Sokos)を愛する者 (Philo)を意味する。それで哲学を愛する者、Philosopher(哲学者)という言葉が生まれた、というのである。

「ごますり」「おべっか使い」を意味するSycophantという英単語も、Sukos(イチジク)に由来している。その昔、アテネのあちらこちらにイチジクの効能をふれて回る人びとがおり、そうした人びとは「イチジクの宣伝屋」すなわちSukophantaiと呼ばれたという。この言葉が、のちに英語のSycophantという単語になったのである。

Ficus carica(イチジク)は、インドではありふれた植物ではない。とはいうものの、同じ種に属する植物は全土に野生している。真にイチジクを指すサンスクリット語はない。これはインドでのイチジク栽培が最近の出来事であるのを意味している。

インドで一般に見られるイチジク属の植物としては、Ficus bengalensis(ベンガルボダイジュ、ガジュマル。ヒンディー語:Bargad), Ficus racemosa(うどんげ。ヒンディー語:Gular), Ficus religiosa(インドボダイジュ、テンジクボダイジュ。ヒンディー語:Peepal), Ficus rumphii(ボダイジュモドキ。ヒンディー語:Pakar), それにFicus elastica(インドゴムノキ)がある。最後にあげたイチジクの一種Ficus elasticaは、17世紀から18世紀の間はアッサム(インド)の良質なゴムの供給源として利用されていたが、ブラジルの植物Havea brasiliensis(パラゴムノキ)が、よりすぐれた商業用ゴムの原材料として発見されると、その価値も失われてしまった。しかし同じ種類の植物のいくつかは、今でも観賞用植物として一般にゴムノキの通称で栽培されている。

真にイチジクと呼べるのはFicus cardiacであるのを明記しておくことは重要ではあろう。だがそれ以外のFicus属の植物もイチジクと呼ばれており、あるものは野生のイチジクとして、またあるものはインドイチジクとして知られている。ゴータマ・ブッダがニルヴァーナを得たのは、正しくは、インドではピーパルと呼ばれる樹木Ficus religiosa(インドボダイジュ)の下でのことである。つまり、これをFicus indica(フィカス・インディカ、ウチワサボテン属のサボテンの一種)であるとした、前述のアッラーマ・ ユースフ・アリ注1の説は正しくない。

さて、当のピーパルの木がインド原産であったにせよ、聖キリストの時代あるいはそれ以前からアラビア半島に存在していたことは度外視できない。したがって、セム系言語に語源を持つアラビア語のティーンが、イチジク属の植物すべてを指している可能性もある。いずれにせよティーンがパレスチナにおいても、その他の地においても重要な樹木であったことは事実である。クルアーンに言及があることからも、その重要性が知れるというものである。

完全に熟したイチジクは、口の中で文字通りとろける、絶妙この上ない果物である。保存食用に乾燥させることも多く、乾燥イチジクは主要な商業製品のひとつである。通常のイチジクは洋梨型をしており、その直径は最大で約5センチである。樹液はラテックスと呼ばれ、植物性の乳を凝固するのに用いることもできる。

イチジクの果実(乾燥重量)中の化学組成は以下の通りとされる。
タンパク質:6グラム、脂肪:1.2グラム、炭水化物:89グラム、繊維:7グラム、灰分:3.8グラム。
ミネラル:カルシウム 220ミリグラム、リン 133ミリグラム、鉄分 2.7ミリグラム、マグネシウム 9ミリグラム、ポタシウム 862ミリグラム。
ビタミン群:ビタミンA 347ミリグラム、チアミン(B1)0.25ミリグラム、リボフラビン(B2)0.25ミリグラム、ナイアシン 2ミリグラム、ビタミンB6 0ミリグラム、ビタミンC 9.22ミリグラム。

イチジクの葉の煎じ薬は胃炎に用いられる。痛みを伴う痔疾の腫れには、葉を水に入れて沸騰させた蒸気浴としても使用される。茎から取れる樹液は、足裏にできたまめ、いぼ、痔疾の治療に用いられる。また虫刺されや咬み傷に対する鎮痛効果もある。果実には穏やかな緩下剤としての働きがあり、粘滑剤として胃腸や胸部の通じを良くする。未熟な果実は母乳の出を良くしたり、または強壮剤として他の食物と組み合わせて調理される。焙煎した果実には軟化作用があり、歯茎や歯の膿瘍の治療の際に湿布として用いられる。果実で作ったイチジクのシロップは、非常に穏やかでありながら効果的な通じ薬として広く認知されており、年少者や高齢者に最適である。若い枝の煎じ薬は肺病に優れている。

重要な伝承(ハディース):イマーム・ムハンマド・ビン・アフマド・ダフビーは次のように伝えている。「預言者(彼の上に平安あれ)は、それ(イチジク)は楽園の果実であり、痔疾の治療や、関節の痛みがあればイチジクを食べるように、と語った。」
(イブン・アルサーニー、アブー・ヌアイム、アルディルミーによる。)


参照文献:1, 9, 25, 26, 28, 29, 35, 46, 58, 71, 76, 105, 107