スフラワルディーの「蟻の言葉」から、第五話「ジンの王と会った男の話」。
ある男がジンの王の一人と知己を得た。そこで彼は王に尋ねた。「あなた方と会うにはどうしたらいい?」。
「私たちに会いたい時は」、ジンの王は答えた。「まずは少々、香を火にくべる。それから、家の中にある鉄で出来たものを全て捨てる。鉄で出来ていて、体の、七つの部分を覆うもの、触れるとガチャガチャ音を立てるもの。
『忌むべきものを全て捨てよ』
それから、滞在中に音を立てそうなものは全て取りのける。
『それらに背を向け、「平安あれ」と言って立ち去れ』
それから、輪の中に座り、香を焚きつつ窓の外を見れば、そこに我らはいる」。
それらの他は、邪悪に類するものとなる。
ジュナイドが「スーフィズムとは何か」と問われた。彼は言った、「彼ら以外には、誰も入らない館に入る人々のことだ」。フワジャ・アブー・サイード・ハッラーズは言った:
「主のために、私なるものはすっかり消滅した。牢獄を抜け出したと同時に、私なるものは消滅した。私を消したがっていた者たちも、私の消滅と同時に消滅した。これが私の消滅である。努めて理解せよ、感情の息子たちよ」。
これを聞いて、こう言う者がいた。
「困った。全く理解できない。当惑するしかない。まず「私」とは何か、がさっぱり分からない –– 私の仲間たちや、私について誰かが言っていることの他には何も」。
師の一人が言った。「くっついている余計な諸々を、全て取り除き追い払え。係累のくびきから、自分を奪い返せ。そうすれば、創造主をその目で見られるかもしれん」。加えて、こうも言った:「そうやって、我らが全ての条件を満たしたとき、」
『大地は主の御光で輝き、 …… 公正な判決がかれらの間に宣告されよう』
昔から、このようにも言われている。「天地万有の主、神に賞賛あれ。集いに平安あれ –– 私の、水場へと至る道に。私の、北風が吹き抜ける辻に」。
『』内は、最初から順にコーラン74章5節、コーラン43章89節、コーラン39章69節。
「鉄で出来ていて、体の、七つの部分を覆うもの、触れるとガチャガチャ音を立てるもの」っていうのはまあ武器とか。あと鎧とか(七つの部分=頭、両腕、両足、おなかとせなか)。
アブー・サイード・ハッラーズさんというのは、バグダッド在のスーフィーで、ものすごい量の御本を書いたとされている。息子さんに先立たれているのだが、あるときその息子さんが夢に出てきて「お父さん、神様とあなたの間にシャツ1枚たりとも隔たりを作らずにいて下さいね」と言ったというので、それ以来二度とシャツを着ずに過ごした、という。
ジュナイドさんもバグダード在(生まれはペルシャ)の、いわゆる「醒めた」スーフィーとして有名になったひとだ。あちこちでちょくちょくお名前を見かける。何かというと「ジュナイドがこう言った」「ジュナイドがああ言った」というふうに。本当に彼が言ったのかどうか良く分からない。論考集が現存するらしいんですけどどうなんだろう。なんだか、チャック・ノリスみたい。
最後のとこの「Shamar = 北風」については、ウィキペディアに記述があった:
シャマール(アラビア語 : شمال)とは、イラクおよびサウジアラビア、カタールなどのペルシャ湾岸地域で吹く、砂塵を伴った強風のこと。シャマルとも言う。乾燥した北西風で、昼間に最も強く、一日中吹き続けることもあるが夜間は弱まる。年に1回~数回程度発生する現象で、夏によく発生するが、冬に発生することも稀にある[1]。シャマールによる大規模な砂嵐はイラクに大きな影響を与えるが、その砂塵の起源はヨルダンやシリアであると考えられている。
スフラワルディーはバグダードに憧れていたようだ。
別のところに書いたのを、こちらに保存しました。