週末の読書

土曜日にお出かけした帰り道に出来心で古本屋さんに入ったら、「八木亀太郎論文集」というのがなんだか良いにおいがした。箱にI・IIと2冊入ってるののうち、Iをひっぱりだして目次を見たらこんな感じでした:

第1巻<目次>
言語学と宗教史
波斯スーフィー教義の発達
ルーミーの長詩について
回教におけるTasawwufの分類に関する考察
回教思想
古代波斯社会制度の文献学的考察
ゴレスターンの一異本について
ペルシヤ神秘思想の特質
波斯語に現れる土耳古語について

じいさんあんた誰なんだ、ってなった。来いよ亀太郎、って連れて帰ってきた。


1巻は昭和19年から28年にかけて発表された論文を集めたもの、2巻は昭和34年から54年のそれ、という構成で、1巻は縦組、2巻は横組になっている。2巻がなんだか「へえ……」ってなるようなおはなしが色々あって、思いのほかおもしろい。波斯、じゃなかった、イランの現代国語教育についての報告とか。

それと、米国現代俳句事情なんていうのが!「米俳句の歴史、現状及び問題点」ですって。俳句好きのアメリカ人。時々見かけるけど、HaikuっていうかZenがほんとうにだあい好きですよね。

読んでいると、ちょこちょことアメリカ人の日本学者ハロルド・ヘンダーソンさん、というお名前が出てくる。かめたろうはこのヘンダーソンさんという人とおともだちだったようだ。彼とお手紙をやり取りしつつ、この文章を書いていらっしゃるんだけど、読み進めていたらこのヘンダーソンさんという人について、「かつてコロンビア大学の日本語教授だった頃は、度々日本に来ており、とくに、戦時中、日本美術の研究家であった故Warner博士と協力して、奈良、京都の爆撃をせぬようルーズベルトに進言してこれを諌止せしめたことで有名である」とあった。

亀太郎は昭和14年から満鉄東亜経済調査局で西南アジア班の研究主任をやっておられたそうだ。昭和21年まで、とあるから、つまり調査局解散まで見届けた人のひとりなのでしょうか。

「イランの現代国語教育」というのもおもしろうございました。現代と言ってもここで扱われているのは革命前、王制時代の教育制度のことで、そういう意味で興味深いです。当時の王制がやっていた「文盲撲滅運動」についてであるとか、とにかくもう色々な外国製品(工業製品)が入ってくるじゃん?それをペルシャ語に訳すの?訳さないの?とか、それを言い出したらアラビア語から借りてる単語なんて昔から沢山あるじゃん、そういうのはどうするの、とか、当時のイランがどういう方向にイランを持って行こうとしていたかが国語教育から見えてくる、というようなお話。この文章が書かれたほんの1、2年後がアルゴ。

ちなみに近隣諸国の国語教育についても少しだけ触れられていた。亀太郎、さらっとふつーに「独裁者ケマル・アタ・トユルク」って書いてる。笑。

……独裁者ケマル・アタ・トユルクは、トルコの民族主義戦線を指揮して、トルコ民族の歴史的意義を強調すべく、歴史教育の変革を企図し、オスマン帝国以前の民族史を重視するとともに、トルコ人征服以前に住んでいたアナトリヤ人が、ツラン人を祖とするものであったことを、国民に周知せしめることに努め、……(中略)……このような官選歴史編纂が、正当な史学的な見解に立ってこれを見たとき、従来の史実と史実との間隙を充填する上においての十分な理論的根拠を与えるに足るものでなかったことは、史家の認めるところであり、…(中略)…新しい国民的結合の重要な拠点の一つを歴史的関繁に求めようとする為政者の露骨な態度がうかがわれる。人為的、擬態的な史観が無理に正当化されんとするところに、問題があり、これは近東諸国の新しい政策に見られる共通の行き過ぎである。

これの後でイランについて、「種々の観点において、トルコに酷似したものをもっている」と亀翁はおっしゃっている。繰り返しになるけれど、ここで言われるイランというのはシャーのイランで、宗教色を一掃してペルセポリスだ、アケメネスだ、と民族主義路線をやっているけれども、

……過去への憧憬が科学的考証に基ずくというよりも、むしろ、恣意的独善的な歴史的事実の再構に逸脱したかの観があるが、これも政治的考慮を参酌して考えると、やむを得ざるに出でたものと解せられる。

この「恣意的独善的な歴史的事実の再構に逸脱」というのの、民族主義ヴァージョンではなく宗教ヴァージョンをやっているのがサウジアラビアですねわかります


人よ、恋人よ、浮世より旅出の時は来たりぬ。
心の耳朶を打つは出発の太鼓の音か。
見よ、駱駝引は起ちて綱を飾り。
惜別を告げぬ、何故に眠るやカラバンよ。
前に、後に、響くは旅出の音と駱駝の鈴の音のみ。
時々に、又刻々に、霊と、又霊は虚空に消へ。
倒燭の天地より、青藍の幕より、去りゆく。
何故に眠る…おゝカラバンよ、この貴き眠りを。
嗚呼、心よ、心に行け、嗚呼友よ友にゆけ。
天さかる日の彼方に浄土の法悦ぞあらん。
あゝ、駱駝引よ、起きよ、眠るべからず。
汝は土なりしも魂となり、愚なりも賢となりたり。
かくの如く汝を惹きし無形の力は。
又汝を惹きて幽遠の至境に導かん。
其惹きゆく力にこそ苦悩の妙諦を観ずべし。
行け、火は水にも似たり。天来の苦痛を嘆ずる勿れ。
(シエムセ・タブリーズ)

亀太郎……カッコイイ(;;)

別のところに書いたのを、こちらに保存しました。にしても亀太郎……カッコイイ(;;)