Long Live Mr. Nelson

11/1のSNL、ミュージック・ゲストはプリンスでした。SNLだいすき。
Watch Prince’s Electric Performance From Tonight’s Saturday Night Live

ホスト役のクリス・ロックのオープニングのおしゃべりが、いつもどおりひどかったです。「きのうはハロウィンだったね!みんなよく生きてここ(スタジオ)に来れたね。良かったね。あしたはNYマラソンだね!こわいね。何が起きるかわからないもんね。ボストンマラソンたいへんだったもんね。26マイル走ってやっとゴールだと思ったら『走れ!逃げろ!』って。何その罰ゲーム、ってなるよね。サディスティックにもほどがあるよね」。


いい感じにまとまってておもしろかった「プリンスの偉大なTVパフォーマンス五選」:
Watch 5 of Prince’s greatest TV performances

以下、記事に従って時系列に:

1980 I Wanna Be Your Lover – Why You Want To Treat Me So Bad?

デビュー後2枚のアルバムはブラック・ミュージックで稼がせたいワーナーの思惑とホワイト・マーケットで稼ぐんじゃなきゃ意味がないというプリンスの思惑を混ぜてみたらなんかこんなのできたんだけどどう?っていう感じも含めてわたしは好きです。ホワイト・マーケットっていうのはまあ「ブラック・ミュージック」っていう語は使われても「ホワイト・ミュージック」という語は使われないことに何の疑問も持たない層によって成り立っている、つまり通常「マーケット」と呼ばれているそれだ。

記事文中にもあるけれど、インタビューがたまらなく痛々しい(painful)。まあインタビュアーが5歳の子に話しかけるみたいなあれなので殿下がおむつかりになるのも仕方がないね。クリス・ロックが「当時は皆『ミネアポリスってどこだよ?!』」ってなってたよな」って言ってましたけど、その通りのやり取りが展開されています。

1985 Baby I’m a Star

アメリカン・ポップスの文脈的には”We Are The World”の裏番組に相当します。にしてもこんだけやってこの年のグラミー受賞者はライオネル・リッチー。「敗者の美学」なんていう言葉が軽々に使えなくなる気まずさ。でもいいんです。それでいいんです。裏番組ですから。

1991 Gett Off

世の中「ブラック・ミュージック」全盛期。プリンスのバンドをクビになったジャム&ルイスがプロデュース業で大成功したりしてた。ジャネット・ジャクソンのアルバムとかね。デビュー以来ずっと遠洋漁業に出てたプリンスが「おれが開拓した客筋だ!横取りされてたまるか」ってなるのも理解できる。とは言えラップをご披露したりされても「え?そっち行くの?」と皆さん若干困惑ぎみではあった。いや、決してわるくはなかったけど。

90年前後、GLAMSLAMというおっきなクラブが本牧に出来たんだけど、その売り文句が「プロデュースドbyプリンス」だった。名義を貸しただけなんじゃないの?と思いつつ実際に行ってみたらなるほど確かにこれはプリンスのプロデュースだ、と合点した。主な理由はふたつ:

(1)めちゃくちゃ趣味のわるい内装
黒と紫のなあ、趣味がわるいっていうかまあ個性的な内装でなあ。こんなん思いつくのはあの男しかいないだろっていう感じだった。

(2)めちゃくちゃいいステージ
「お立ち台」とかそういうんじゃないちゃんとしたステージがあった。両脇に大きなスピーカーが鎮座してて、ダンスフロアの1/2がそれで占められてる。当時の一般的な風潮からすればあり得ないというか、夜間営業の紳士淑女の社交場を新規開店するのにステージ据え付けようなんて思いつくのはあの男しかいないだろっていう感じだった。いちおうDJブースもありましたけど、建物の造作としてはあくまでもステージが中心になってた。ああプリンスはミュージシャンなんだねって妙に感動した。アーティストというよりはエンターテイナーというよりはミュージシャン。

でも実際のところ、ちゃんと楽器演奏できるミュージシャンがそのステージに立ったことって残念ながらほとんど無かったと思う。何度か誰だかのライブに行ったけど、みんなDJ連れて来て済ませちゃうから(それって全然「ライブ」じゃないよな)。

ここらへんからしばらくプチ受難の時代。どこもかしこも流れるのはどれもこれも似たようなニュージャックスウィング。いやそれはそれで良いんだけどね。悪くないんだけどね…ってひたすらアルバムを聴き直しては解釈を披露し合ったり議論したり、カルトってこうして育つのな。「パープルレイン」が何のメタファーなのかとか30年経っても飽きずにやってるんだからおかしいよな。でも仕方がない。クリス・ロックの言葉を再び借りれば「今は『そのまんま(literal)』な音楽ばっかりで、『あたまをつかう』音楽がどこにもないからな」。

2007 Super Bowl Halftime Show

みごとなセルフコスプレ。思春期ってたいてい10代で終わるはずなのが彼の場合は20代30代ずっと思春期。もうずっと思春期かよと皆で温かく見守ろうモードに入りはじめたここらへんでようやく心の変声期が済んだ感があります。っていうかどこのメーカーのアイライナー使ってるんだろって昔から気になって仕方がない。

ところでこれの2年前にNAACP(全米有色人種地位向上委員会)の功労賞を受賞してるんですが、その時のアクトと見比べるといろいろ興味深い。

カバーにもってくる曲がNFLではボブ・ディラン、NAACPではサンタナっていうあたりがおとなのきづかい。「ブリッジ」とか「アマルガム」とか評されるのもうなずける。そしてどちらもちゃんとできちゃうのがすごい。いやプリンスをつかまえて「できちゃう」も何もないんですけど。どっちがアウェーでどっちがホームっていうのじゃなくて、ある意味どっちもアウェーでどっちもホーム。

2013 Prince Rocks Out With ‘Screwdriver’ on ‘Fallon’
inshaAllah, もうあと何年かしたら、このひとアコギ1本でブルースをやってると思います。今ぜったいブルースハープの練習してるはず。「唇が荒れるから嫌なんだけど」とかなんとか言いながら。

いやしかしデビューから35年、この男の顔を見ることである種の心の平安を得る日が来ようなど、アメリカ市民のうち誰ひとりとして予想してなかったに違いない。

Long Live Mr. Nelson.

別のところに書いたのを、こちらに保存しました。