この季節になると読み返したくなる御本について

終わらせなくてはいけない仕事がいっこ、あるのです。依頼されたのが去年の今頃で、去年の秋くらいには納品するつもり、だったのです。でも終わってない。あるんですよいろいろと。よんどころない事情とか理由とか。言い訳とか。でももうそろそろ本当に終わらせなくてはいけない。このままではいけない。このままではいけない。やります。やります。

ところでこの季節になると読み返したくなる御本があります。コーランに登場する植物について取り上げた御本なんですけれども:

Scientist, author and Quranic plants expert Mohammed Iqtedar Hussain Farooqi in the Lucknow Botanical Gardens. Bhargavi for The National
Scientist, author and Quranic plants expert Mohammed Iqtedar Hussain Farooqi in the Lucknow Botanical Gardens. – Bhargavi for The National

A chat with an expert of Quranic plantsという、この御本の著者であるインドの植物学者Mohammed Iqtedar Hussain Farooqi氏(以下、ファルーキ先生)の2年前のインタビュー記事を見つけました。あ、記事を読む限りだとやっぱり御本の題名はPlants of The Quranが正しいのか。わたしの手元には、Plants of The QuranPlants of Quranの二種類あるんです。後者は一昔か、それ以上前に中近東文化センターで見つけてコピーとらせてもらったものなんですけど。なんでこうなったんだろうなあ、なんとなく察しはつくけれど。などと思っていましたが、記事文中にこうあった。

The first edition of Plants of the Quran was published in 1986. Since then, it has gone through nine editions and been translated into at least nine languages, including Urdu, Hindi, Kannada, Malayalam, Farsi and Bahasa (from Indonesia).

Farooqi says that almost 10,000 copies have been sold, although he says it’s impossible to put an actual figure to the sales, because the volume has been reprinted several times without his permission.

ファルーキ先生自身が把握している分には、同書はおよそ10,000冊売れたんだけれども、何度もファルーキ先生のあずかり知らぬところで勝手に複製されもしているので、実際はどれくらい出回っているのだかよく分からない、とのこと。うーん、お察しの通りでした。

この御本、わたしの大好きな御本なんですが、わたしのその「大好き」を差し引いてもすごくいいです。ファルーキ先生のご専門は植物学であって宗教学ではありません。コーラン解釈の伝統の範疇内ではこれこれしかじか、とされていた・それ以外の解釈が存在する余地もなかったいくつかの植物について、「実際にはこれこれの植物では」「実際にはしかじかの木の実では」といった具合に、宗教学者ではなく植物学者の見地から理路を通してていねいに解説されています。結果として「植物百科事典的であると同時に、文化史の要約」でもあるという、植物史と文化史の交差点としての一冊の書物、といった具合ですが、

“Many of the plants mentioned in the Quran are common to Arabia and India; in fact, many of the plants that are mentioned in the Prophetic tradition, in the hadith, were imported to Arabia from India long before the advent of Islam.”

“So identifying the common plants was easy, but identifying the plants that are associated in different Quranic verses with paradise, jannah, and with hell, is very difficult, because in each of the commentaries of the past, they have given their own ideas, and the new interpretations, which I have given, have not always been accepted.

“There is a verse in the Quran that says that all good Muslims, when they reach jannah, will be provided with a drink in which camphor will be mixed, but this is not understandable,” he says. “Camphor is a toxic substance, and if you mix even a small amount with water, you cannot drink it.”

Farooqi’s answer is to ­identify the kafur of the Quran not as camphor but as henna or Lawsonia inermis.

“Many people do not accept the reinterpretation, but I am fortunate that some well-known Islamic scholars, including those from the Islamic University in India, have agreed with my interpretation and have said that my work has done much to remove confusion.”

コーランで言及されている植物の多くはアラビアとインドに共通している。事実としてハディースに登場する多くの植物が、イスラムが波及するよりもずっと以前にインドからアラビアへもたらされたものである。そのためそうした植物を特定するのは簡単だった。が、しかしコーラン文中で天国や地獄に帰されている植物については困難を極めた。何しろ過去になされた注釈は、どれもめいめい好き勝手に自己流の意見を述べており、そこに新たに解釈を加えたところで常に受け入れられるとは限らない。が、しかしたとえばコーランには、善良なムスリムは全員が天国に辿り着き、そこでカーフール(Camphor, 樟脳)を混ぜた杯を飲む、とある。これは理解できない。樟脳は毒性の物質であり、ほんの少しでも水に混ざっていたら飲用には適さない。

ファルーキ先生は、コーランにおける「カーフール」とはヘンナを指しているのだろうと結論づけた。人々の多くはこうした再解釈を受け入れなかった。ファルーキ先生いわく「幸運なことに、イスラム専門の大学の出身者も含めて、インドの著名なイスラム学者たちの何人かは私の解釈に同意し、私の研究が多くの混乱を取りのぞくのに大いに役立った、と言ってくれている」。云々。

「これは理解できない」って良いですよね。コーランに「カーフール」って書いてあるんだし、別に良いじゃん「カーフール」は「カーフール」で、とはならないところが。

これ以外にも「物議をかもした」解釈がふたつほどあり、ひとつはスィドラの木について、またもうひとつはザックームについて。

Two of Farooqi’s other controversial interpretations involve the Quranic sidr, which has been commonly understood to refer to the tree we now know as Ziziphus spina-christi, but which he insists is actually the cedar of Lebanon (Cedrus libani), and the zaqqum, or tree of hell, which the scientist has identified as Euphorbia ­resinifera.

どちらも御本の文中では、ファルーキ先生が植物の専門家としての筋を通してみたら、それがイジュティハードになってみずみずしくグリーンでクリーンなタフスィールが導き出された、みたいな感じでとても良いです。

そういうわけなので、みんなも読んでみてください。

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