第2話

『スーフィーの寓話』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー

「青物屋と緑のオウム」1

 

あるところに青物屋がいた。青物屋は一羽のオウムを飼っていた。甘くかわいらしい声でものを言う緑色のオウムだった。椅子を止まり木に、店番をしていた。そして全ての商人達と、立派に話をしてみせた。

ある日、オウムが椅子から飛び立ったときのことである。勢いよく羽ばたいたはずみで、薔薇の香油の瓶を落としてしまった。そこへ主人が家の中からやって来て、商人なら誰もがそうするように、どっかりと椅子に腰掛けた。腰掛けてから、主人は事の次第に気がついた。椅子は油にまみれ、服にもべっとりと滲んでいる。彼はオウムの頭を殴りつけた。殴られたオウムの頭ははげてしまった。

それから数日のあいだ、オウムは全く口をきかなくなってしまった。

青物屋は後悔し、深いため息をついた。自分の顎髭をすっかりそり落とし、古い格言をひっぱりだして言った、 - 「ああ!我が幸運の太陽は雲間に隠れた。我が手こそ、その瞬間に砕けてしまえば良かったものを。かわいい声を持つものを、どうして痛めつけたりしたのだろう」。オウムのおしゃべりを取り戻そうと、青物屋は出会う全てのダルヴィーシュ達2にせっせと施しをするようになった。

三日三晩も過ぎた頃、青物屋は椅子にぐったりと腰掛けていた。困惑と悲哀に満ちて、すっかり絶望しきった様子。オウムが再び話し始めるようにと、ありとあらゆる類いのまじないをオウムにかけてみたりもしたのだが。

そうこうしているところへ、無帽のダルヴィーシュが通りかかった。ジョウラク3を身にまとい、洗い桶か、はたまた鍋の底かと見まがうほどに、見事につるりと禿げていた。

その時である。オウムが再び口をきき始めた。ダルヴィーシュに向って甲高い声で言った、 - 「へええ、たまげた!もし、そこを行くだんな!」。

「やあやあ、はげあたま!一体、何だってはげの仲間入りをしたんです?あ、分かった!あんたも香油の瓶を落としちまったんだね?」。ジョウラクを着る者を、自分の仲間と思い込んだオウムを見て、周囲にいた人々は一斉に笑った。

 


*1 1巻247行から。キヤース(類推)による理論立てが陥りやすい罠と、外見から判断することの愚かしさを描いた小話である。

*2 スーフィズム、いわゆるイスラム神秘主義における修道僧の呼称のひとつ。スーフィズムについてはこちらを参照

*3 目の粗い祖末な羊毛の外衣。