第10話

『スーフィーの寓話』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー

「薬剤師と土食い男」1

 

土食いの気質を持つ男が、上等な砂糖をたっぷり買い占めるつもりで薬局へ出かけた。

訪れた薬局の薬剤師は、悪知恵の働くずる賢い男だった。やって来た客に、自分の店で使っている秤は、土をおもりとして使っているのだが、と告げた。2

「私が欲しいのは砂糖だよ」、土食い男は言った。「秤に何を使おうが、好きにしてくれて構わない」。それから彼はひとりごとをつぶやいた、「土をおもりに使うって?結構なことじゃないか、金よりも土の方がよほど上等だ」。

そこで薬剤師は土を持ってきて、秤の一方に乗せた。それから、秤のもう一方に乗せようと、砂糖の結晶をがりがりと削り始めた。切り出しも何の道具も持たずに、素手でがりがりとやるものだから、その仕事はずいぶんと長い時間がかかり、その間は客も待たされることになった。

薬剤師が砂糖と格闘しているのを待つうちに、土食い男は眼の前にこんもりと盛られた土が気になってきた。食欲には勝てず、ついこっそりと手を伸ばし、ひとつまみばかり口に放り込んでしまった。しまった、つい食べてしまった。どうしたものか。薬剤師がひょいと顔をあげてこちらを見ようものなら、ごまかしようもなく食べたことがばれてしまう。ああ、ああ。

土食い男は怯えた。次の瞬間にも、薬剤師に見とがめられるのではないか。しかしひとつまみ、もうひとつまみと食べずにはいられない。ああ、ああ。薬剤師がこちらを見ませんように。不注意でい続けてくれますように。

薬剤師は、客の土食い男の様子など何もかもお見通しだった。しかし何も言わずに、いっそう忙しそうにがりがりと砂糖の塊を削る仕事を続けた。そして心の中で思った - 「そら、もっと食え。もっと食え。おまえがコソ泥のようにおれの土を盗み食いしたければ、遠慮は無用だ、どんどん食え。

何故って、おまえが食べているのはおまえの取り分だ。おれの取り分じゃない。おれに見つかりはしないかと怯えているようだが、馬鹿め、おれの知ったことか。おれはむしろ、おまえが少ししか食べないんじゃないかと心配しているくらいだ。

安心しろ、おれは忙しい。おまえを見張っているひまはない。これはおれの砂糖だ。一粒だって、余計に売ってやるものか。おまえの取り分となる砂糖の量を見て、それで初めておまえは、誰が不注意だったのか、誰が愚かだったのかを知るだろうよ」。

 


*1 4巻625行目より。『マスナヴィー』には、ジオファジー(土食症)の習慣に関して複数の言及がある。Schilimmer氏による著『医療ならびに製薬に関する用語集(”Terminologie medico-pharmaceutique”,Tehran, 1874, p.299)』によれば、ペルシアの女性達の間では、土食はごく一般的な習慣とのことである。ホラーサーンの一地方などは、非常に優れた白色土の特産地として知られており、これを焼いたものがしばしば食用として供されるという。それ以外にも、食用土には数多くの種類があるとされる。

*2 「普通の秤とは違う」と念押しした。