『スーフィーの寓話』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー
「ムーサーと羊飼い」1
道の途上で、ムーサーが羊飼いに出会った。羊飼いは祈っていた。
わが主よ、望み通りになされる御方よ
どこにおられますか
おそばに参りましょう
そしてお世話をいたしましょう、愛しい御方
服を洗って差し上げましょう
シラミを退治して差し上げましょう
おなかが減ったらミルクをお持ちしましょう、
わが主よ、お仕えしがいのある御方よ
靴をこしらえて差し上げましょう
柔らかな髪をくしけずりましょう
小さな御手にくちづけましょう
小さな御足をさすって温めましょう
そしておやすみの時間が来たら、
小さな寝室を掃き清めて差し上げましょう
愚かな言葉の数々を聞いてムーサーは言った、「おまえは、一体誰に向かってものを言っているのか?」。「私たちをお創りになられた御方です」羊飼いは答えた、「天と地とを顕わされたあの御方です」。「笑止!」、ムーサーは言った。
「これを堕落と言わずして何と言おう?おまえはムスリム2ではない、明らかに不信の徒だ。何とまあ良くしゃべる口か!何たる冒涜、何たる愚劣!おまえの吐いた言葉の数々が、世界中に涜神の悪臭をまき散らしてしまった。おまえは宗教という絹の衣を引き裂き、ぼろ布に変えてしまった。
靴だの、靴下だのはおまえには似つかわしかろう。しかし太陽たる御方が、そのようなものを必要とされるはずが無いではないか。無知な友こそ真の敵、とは全く良く言ったもの。いと高き神は、おまえの考えるような奉仕を必要とはされておらぬ」。
これを聞いて、羊飼いは言った。「ああ、ムーサーよ。あなたは私の口を封じてしまった。私の魂を悔悟の炎で燃やし尽くしてしまった」。彼は着ていたものをかきむしって身悶え、ため息をついた。それから砂漠の方向へ向かって、彼の道をとぼとぼと歩いていった。
そこへ、ムーサーに神の啓示が下された。
ムーサーよ、われとわがしもべの仲を切り裂いたな。
そなたが遣わされたのは絆を結ぶためか、
それとも断ち切るためか。
われは全ての者に、それぞれの方法を授けてある。
それぞれが、それぞれにのみ為し得る方法でわれに仕えている。
たとえそなたにとっては冒涜に聞こえようとも、
かの者にとっては、それが最良の礼賛の言葉なのである。
ヒンドの者にとっては、ヒンドの流儀こそが最良の礼賛であり、
またシンドの者にとっては、シンドの流儀こそが最良の礼賛なのだ。
われは舌によって語られた言葉を見るのではない。
われは内奥に潜む心と、その意図とを見る。
われは心による謙譲を見る、言葉による謙譲ではなく。
美辞は要らぬ、麗句は要らぬ、虚飾は要らぬ!
燃やせ、燃やせ、われは燃やすことをこそ欲する、
炎を絶やしてはならぬ、常に燃やし続けねばならぬ!
魂を、愛の炎で明るく照らせ、
思考も言葉も、愛の炎で焼き滅ぼせ!
ムーサーよ、知っておけ。
教条を知る者の一群とは別に、
心も魂も、愛の炎で燃やし続ける者の一群があることを。
愛の宗教と、その他すべての宗教は峻別される。神を愛する者はもはや宗教すら持たず、あるのはただ神のみである。
*1 2巻1720行目より。
*2 第3話・註4を参照。(以降、当該用語については註を省略する)