『スーフィーの寓話』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー
「目には見えぬ象」1
暗い小屋の中に、一頭の象がいた。見世物にしようと、ヒンドの人達がはるばる連れて来たのだった。目で見ることは出来なかったので、暗がりの中、人々はそれぞれ自分の掌で象に触れ、感じる他は無かった。
ある人は鼻に触れ、「象とは、まるで水道管のような生き物だ」と言った。別のある人は耳に触れ、「いやいや。象とは、まるで扇のような生き物だ」と言った。また別のある人は脚に触れ、「私は象を知っている。あれは柱のような生き物だ」と言い、また別のある人は背中に触れ、「誰も分かっちゃいない。本当のところ、象とは王座のような生き物だ」と言った。
小屋から出て来た人は皆、口々に違う言葉で説明し合った。もしも彼ら一人ひとりが、その手に蝋燭の明かりを持っていたなら、言葉の相違など生じなかったことだろう。
*1 3巻1259行目より。宗教は数多く存在するが、神は唯一である。暗闇を手探りで進む他は無い知性には、主についてほんのわずかすらも知ることは出来ず、主の全貌についての概念すら形成することが出来ない。全てを透視する神秘主義者たちの視線のみが、主のあるがままに出会うことを可能にする。