アブー・ジャフルと奇跡

『精神的マスナヴィー』1巻
ジャラールッディーン・ムハンマド・ルーミー

 

アブー・ジャフルと奇跡

奇跡とは何か。奇跡が起こると、何が起こるのか。ここでひとつ、アブー・ジャフルの眼前で起きた奇跡について語っておくとしよう。アブー・ジャフルは、長年の預言者の敵であった。そのアブー・ジャフルが、預言者の許へやって来た。その手には、ひと掴みの砂利が握られていた。

「アハマド(ムハンマド)よ」、彼は言った、「言え、これは何か。早く答えてみろ。おまえが本当に預言者ならば答えられるはずだ。わしの握りこぶしの中に隠されているものなぞお見通しだろう。隠された天国の秘密ですら、ご存知のはずなのだからな」。

「一体、どうすればあなたのお気に召すだろうか?」、預言者は言った。「あなたが隠しているそれについて、私が答えればあなたは納得するのだろうか、それとも隠しているそれが、直接答えた方が良いだろうか」。

アブー・ジャフルは言った。「それはもちろん、二番目の方がすごいに決まっている」。「その通り」、預言者は言った。「だがそのようなこととは別に、神はあなたが思うよりもはるかに偉大であられる」。預言者がそう言うなり、閉じられたアブー・ジャフルのこぶしの中で、砂利が口々に信仰の告白を唱え始めた - 「神ハ無シ」。「唯一ノ御方ヲ除イテ神ハ無シ」。それはまるで連ねた真珠のように鳴った、「あはまどハ御方ノ使徒ナリ」。

それを聞いたアブー・ジャフルは、腹立ち紛れに掴んでいた砂利を力まかせに床に叩き付けた。そして訪れた時よりも、更に怒りに満ち満ちて立ち去って行った。