『ルーミー詩撰』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー
「愛の葡萄酒」1
–– 彼が来る!
彼は月 かつてどの空にも抱かれたことのない月
これは現か、それとも夢か
永遠の炎を授けられた 洪水でも消し止めることは出来ない
ぼくを見ておくれ、愛の瓶の中にぼくを探しておくれ
ああ 見ておくれ、ぼくの魂が泳いでいるのを
ああ、ああ 見ておくれ、ぼくを閉じ込めていた館が
土塊で出来た体があっけなく崩れ去るのを
ずっとひとりぼっちだったのだ
孤独なぼくの心に 最初に葡萄を与えたのは確かにきみだ
そうしてぼくの心を開いて 葡萄酒を注いだのは確かにきみなのだ
葡萄酒がぼくの胸を焼き 血管という血管を満たし ––
けれどぼくの視界が彼の姿で埋め尽くされ
彼以外に何も見えなくなったその時 声が響いた
「大したものだ!天衣無縫の葡萄酒に、唯一無二の酒杯とな」
愛の強烈な一撃
天上から地底までを切り裂く
裂け目という裂け目が黄金色に輝いて照らすから
砕かれた暗闇の小部屋に隠れることも出来ない
あまりにも早く心を開け渡してしまった
あまりにも向こうみずに愛の海に飛び込んでしまった
きみに見つけて欲しかったのだ
きみに探して欲しかったのだ
太陽が動けば雲がその後を追って走るように
全身全霊で追わずにおられない –– ぼくのタブリーズの太陽を!
*1 『シャムスィ・タブリーズィー詩集詩集』7.