『スーフィーの寓話』
メヴラーナ ジャラールッディーン・ルーミー
「ルクマーンの忍耐」1
ルクマーンがダーウード2を訪れた時のこと。
「純粋な心を持つ者」として知られるダーウードは、その日、鉄の輪を造っていた。そしてルクマーンが見ている目の前で、出来上がった鉄の輪同士を編むように繋げていた。それまでルクマーンは、ただの一度も武器職人の手仕事3を見たことが無かった。彼は驚き、好奇心はいや増した。
「一体、これは何だろうか?何を造っているのだろうか?鉄の輪を繋ぎ合わせると何が出来上がるのか、造っている本人に尋ねてみようか」。それからすぐに、彼は自分に言い聞かせた。「忍耐は何ものにも優る。忍耐こそは、探求者を最も早く目的地へと導く」。
分からないことがあるからと言って、質問さえすれば解答が得られるというものではない。むしろ問い詰めれば問い詰めるほど答えが遠ざかり、秘密が明かされずに終わることの方が多い。忍耐を知る鳥は、他のどの鳥よりも速く遠くへ飛ぶ。もしも相手を質問攻めにすれば、欲する解答が知らされるまでにより多くの時間がかかることになるだろう。簡単だったはずのことが困難になってしまうのは、自らの我慢の無さによるものだ。
こうして、ルクマーンは沈黙を守った。おかげでダーウードも自らの技巧を思う存分に発揮し、たちまちのうちに見事な鎖帷子を完成させた。それから彼は出来上がった鎖帷子を身につけ、忍耐強く待ち続けた賢い人ルクマーンの方を見た。
「若者よ」、ダーウードは言った。「これは鎖帷子、とても優れた道具なのだ。戦場でこれを身につければ、あらゆる攻撃を防いで身の守りとなる」。ルクマーンは答えた、「加えるならば、忍耐もまた優れた身の守りでありしょう。何しろ忍耐こそは、あらゆる苦痛に対する最大の保護であり防御なのですから」。
*1 3巻3858行目より。ルクマーンについては第19話・註1を参照。(以降、当該用語については註を省略する)
*2 旧約聖書に登場するダビデのこと。イスラムにおける預言者の一人。ムーサーがタウラート(モーセ五書)を、イーサーがインジール(福音書)を、神より啓示されたのと同様に、ダーウードはザブール(詩編)を啓示されたとされる。
*3 コーラン21章80節:「また、おまえたちに加えられる暴力を防ぎために、彼に鎧(よろい)の造り方を教えてやった。」