アーイシャとムスタファの語らい

『精神的マスナヴィー』1巻
ジャラールッディーン・ムハンマド・ルーミー

 

アーイシャとムスタファの語らい

ある日のこと。ムスタファ(ムハンマド)は墓地に来ていた。運んできた棺の中には、彼の友人が眠っていた。彼は大地に穴を掘り、友人の眠る棺を埋めて墓とし、それから急いで土を被せた。大地の奥深くに、貴重な種を埋めるかのように。貴重な種に、新たな生を与えるかのように。

草や木々ほど、かつて埋葬された者達を思い起こさせるものはない。
大地の下から両の腕を高く伸ばすその姿は、まるで天空の高みを目指すかのよう。

耳を傾けようとさえすれば、誰にでもはっきりと彼らの声が聞こえるだろう。
彼らは、いつでも私達に語りかけている、その声は決して途絶えることがない。

鮮やかな緑色のその舌で、ほっそりと長いその手指で。
彼らは秘密の数々を惜しげもなく私達に伝える、大地の誠心を、地球の本心を。

水面を泳ぐ鴨の群れ。
勢いよく水の中に潜ったかと思えば、再び水面へと戻ってくる。

反射して光る水の飛沫。
鴨が去れば、水辺はたちまち華やかな孔雀に彩られる。

やがて冬が巡ってくる。
さっきまで居たはずの孔雀はもう居ない。

動くものがあると思えば、あれは喪に服したカラスの群れ。
冬の間中、御方は「それ」を氷と雪もて封じたもう。

氷と雪に封じられた「それ」は、カラスの姿を身にまとっている -
やがて再びの春が訪れ、孔雀の姿を身にまとうその日まで。

御方は冬もて全てに死をもたらしたもう。
御方は春もて全てに生をもたらしたもう。

信じぬ人々は言う、
「冬も春も、放っておけばひとりでに巡り続けるもの」と。

「季節の移り変わりに、何の理由がいるものか」
「慈しみ深い主のみわざとやらに、説明を求める必要などありはしない」

- だが信じぬ人々が何を言おうとも、
御方を友とする人々の心の庭には、冬と言わず春と言わず、
甘い芳香を漂わせる花々がいつでも咲き乱れている。

信じぬ人々が何を言おうとも、
薔薇の香りは世界という世界をめぐりめぐる。

香りの届けられるところ、
不信と疑念の重いヴェイルが引き裂かれ内側から真理があらわになる。

信じぬ人々が薔薇の香りに出会っても、
彼らが見せる反応は甲虫のそれと大差がない。

真理を告げるドラムが鳴り響こうとも、
ささやか過ぎる彼らの知覚では捉えることも出来ない。

理解出来ないものを、「理解出来ない」、と、
知ることこそが理解への一歩だというのに。

彼らは理解することそれ自体には専念せずに、
あたかも理解しているかのように装うことに専念する。
次から次へと、「理解している」という名の衣裳を偽造する。

そんなことだから、そら、一たび稲妻が空を切り裂けば、
驚いて目をつむり縮こまる以外に他はない。

とどろく雷音に、衣裳はたちまち剥がれ落ちる。
彼らは、稲妻の光を見ずに目を閉じる。
それこそが、「理解する」ということへの彼らの態度なのだ。

彼らの目は真理を避け、恐怖に支配を明け渡す。
こうした人々にとっては真理を求めるなど二の次で、
どこかに安全な逃げ場はないかとそればかりを求める。

- さて、預言者は墓地から戻ると「シッディーカ」6の許へ行った。そして木々の緑を見ながら思ったこと、心に浮かんだことなどを彼女に打ち明けた。ところがシッディーカは彼をひとめ見るなり、驚いた様子で彼に駆け寄り、その手で彼の頬を撫でた。それから彼のターバンを、額を、髪を撫で、彼の腕、胸元、襟の中にまで手を入れて探った。

「待て、ちょっと待て」、預言者は言った。「何をそんなに慌てているのやら。一体、何を探しているの?」。彼女は言った、「私は今日、雲が雨を降らせているのを見たのよ。だからあなたもあなたの着ているものも、雨に濡れてお戻りになるだろうと思っていたのに。あなたときたら、ちっとも濡れていないんですもの。私の方こそお尋ねしたいわ、これは一体どういうことかしら!」。

「それはそれは」、預言者は言った。「ところで、ぐるぐる巻きになって君の頭の上に乗っかっているそれ。それは一体何だろうね」。彼女は言った、 「ああ、これ?あなたの肩掛けよ。あなたがお留守の間、私の髪を覆うのにちょっとお借りしていたの」。彼は言った、「それだよ、かわいい娘さん -

君の心は、本当に澄んでいるのだね。それで神は特別に、君の澄んだ目に、秘密の雨を見せたもうたのだね。私の心とは裏腹に、今日の空はよく晴れていた。だから君が見たという雨は、あの空、あの雲が降らせた雨じゃない。 - 分かるかい?あの空、あの雲とは違う別の空、別の雲、別の雨というものがあるのだよ」。


*6 シッディーカとは預言者ムハンマドが妻アーイシャにつけたあだ名、愛称。「誠実な女性」という意味。(アーイシャの父のあだ名も「シッディーク」で、こちらは誠実な男性という意味。)