『精神的マスナヴィー』1巻
ジャラールッディーン・ムハンマド・ルーミー
続)砂漠のベドウィンと、その妻の物語
- ただ苦悩のみが、人間を成長させる。知識ある者ならば、この事実を認めるだろう。
夫は、妻の願いを聞き入れぬわけには行かなかった。妻の反逆を、自分に対する神からのみしるしとして受け入れぬわけには行かなかった。妻の言う通りだ。生計を建てる手段を探さねばならない。冷静に考えてみれば、妻の言い分はしごく真っ当なことばかりだ。彼は自分の物言いを恥じた。まるで民衆の反乱によって、今まさに処刑される寸前の専制君主のような気分だ。
「わが妻、わが魂よ。私を支えてきてくれたおまえに、どうしてあんなにもひどいことを言ってしまったのだろう?自分を愛する者の、敵になってしまうだなんて。自分が愛する者を、乱暴に足蹴にしてしまうだなんて」。>だがそれもまた、起こるべくして起こったことだ。運命とはそうしたもの、突然に私達に襲いかかり、私達の視界をヴェイルで覆ってしまう。これでは知性も働けず、上も下も区別がつかなくなる。
やがて運命が立ち去れば、ヴェイルも取り除かれ、その下に残された胸の傷もあらわになる。起きてしまったことを目の当たりにして、知性には嘆き悲しむ以外にすべがない。「おまえの言う通り、かつて私は異教の男だった」、夫は言った。「誓うよ。今こそ、神に従う者として歩み始めよう」。