引用:『知られざる戦争報道の舞台裏』


知られざる戦争報道の舞台裏 (ARIA‘DNE MILITARY)

 –– タリバンがハザラ人を迫害すると非難されているが?
「タリバンはイスラムの下に民族の違いは無意味なものになると主張している。そして世界のあらゆる民族のモスレムが参加している。自分達だけを優遇し、他の民族を迫害してきたのはハザラ人の方だ」
–– モスレム同士の戦争はハラーム(破戒)だ。
「アフガニスタンのムジャヒディンは堕落し、イスラムの名を汚した。私達はイスラムの敵と、イスラムの名の下に戦う。これはジハードだ」
(略)
バーミヤンには世界遺産の暫定リストにも載っているという有名な磨崖仏があり、私はまず、タリバンに破壊された38mの大仏像を撮影した。大仏は顔面と胴体部分に戦車砲を撃ち込まれて、大穴が開いていた。大仏の周囲の岩を彫り抜いた壁面にはかつて壮麗な壁画があったはずだが、跡形もなく剥がされていた。それはヒンドゥー教の太陽神アースラがギリシア神話アテナ女神に護られる形で描かれており、ペルシア・ササン朝様式の高貴な女性の姿や仏教僧の姿も一画面に描かれていたはずだが、何一つ残っていなかった。アフガニスタンに栄えたガンダーラ文化がインド、ペルシア、ギリシアなど東西文化の融合の産物であることを雄弁に語っていた歴史の証人は失われてしまった。
(略)
礼拝が終わると、タリバンはまず私に近付いてきた。
「なぜ礼拝しない?」
私が黙っていると、宿の主人が言った。
「彼は外国人だ」
すると、二人は私の元を離れ、もう一人の男に向った。
「おまえはなぜ礼拝しない?」
男は言った。
「私はハザラ人だ」
ハザラ人はアフガニスタンの民族の中では唯一、イスラムのシーア派を信奉している。シーア派とスンニー派は礼拝のスタイルが違う。スンニー派のタリバンの指揮でハザラ人が礼拝することは不可能ではないが、不自然な感じになる。そんなことはタリバンも充分知っているはずだ。
もう一度、タリバンは尋ねた。
「なぜ礼拝しないのかと聞いている」
「ハザラだからだ」
途端、タリバンはカラシニコフを振り上げ、銃把で男の顔面を殴った。鈍い音がして、男の口から折れた歯がこぼれ落ちた。客達は無言で、成り行きを見守っていた。
タリバンはものも言わず、チャイハナを出ていった。
タリバンの姿が消えると、客達は彼に駆け寄り、口の血を拭ってやった。男は礼を言って立ち上がり、一人で礼拝を始めた。
(略)
この後私はさらに、マザリシャリフや北部の前線などを取材して、99年の一月末に帰国した。ハザラ民族の殺戮に関しては他にも多数の証言が得られた。マザリシャリフでは大通りに延々と死体が転がっていたという。そうした内容の取材写真とビデオテープを出版社やテレビ局に売り込んだ。世界の目から隠されたハザラ人虐殺の実態を初めて発表できるチャンスだった。
それを阻害したのは、他でもない、私自身の取材内容だった。テレビ局も、新聞も、私が撮影したバーミヤン大仏の映像を欲しがった。朝日新聞が99年2月5日の朝刊第一面で扱った他、NHKは同じ日の7時、9時、11時のニュースで流した。私は誤解していた。大仏破壊のニュースを通して、これまで全く関心を持たれなかったアフガニスタンに少しでも関心が集まり、ここで続いている殺戮に対しても問題意識が生じるだろうと。しかし、そうではなかった。アフガニスタンの問題は、あくまでもバーミヤン大仏だけがニュースだったのだ。訪問したあらゆる出版社、テレビ局で、私は大仏よりも人命の方がニュースとして重要なのだから、こちらを優先して扱って欲しいと訴えて回った。しかし、聞き入れられたところはなかった。大仏を撮ってしまったばかりに、それ以外の取材の発表の場を私は減らしてしまったのだ。
99年の10月から、国連はアフガニスタンに経済制裁を課した。タリバンがウサマ・ビン・ラディン氏を匿っていることへの対応だ。アフガニスタンではその前年から厳しい干魃が続いており、この世界最貧国に経済制裁を課した結果は予想されていた。が、安全保障理事会の採決に反対意見は出なかった。
(略)
(「封印されたアフガンの悲劇」常岡浩介 『知られざる戦争報道の舞台裏』)


引用めも、そのいち:なんでこんないかがわしいタイトルといかがわしい表紙の御本がわたくしの本棚に、というような御本なんだけれども、共著者につねおかがいるのでしかたがないですね。

引用めもそのに:たった3日かそこら拘束されただけのひとが、それだけで1冊御本を書けるなら、100日+何日か拘束されたつねおかは単純計算でも30冊は書いてるはずなのにおかしいだろ。めんどうくさがりにもほどがあると思う。いっそ拘留されてしまえばいわゆる「缶詰」という状態になり、他にやることもなく書き始めるのではないか。こういう時に限ってなぜ公安は仕事をしないのか。

別のところに書いたのを、こちらに保存しました。