コメディアンはほんとうにえらい

デイビット・ジェイバーバウムという脚本家/作家のひとがいます:

「ザ・デイリー・ショウ」なんかを手がけたりしたひとなのだけれど。このひとの御本に『THE LAST TESTAMENT』というのがあって。邦題にするなら『終約聖書』か。副題は「神の回顧録」。神の一人称でおはなしが進むんだけど、「神とチャネリングして書きました」とか言ってる。


The Last Testament: A Memoir

表紙わりと好きです。神は白人じゃないと何度言ったら分かるんだ。

1. 初めに、わたしはレヴィン・グリーンバーグ・リテラリー・エージェンシーのダニエル・グリーンバーグとランチを共にした。
2. 出版の未来は混沌であって、闇が深淵の面にあり、不況が業界の面を動いていた。

「主よ、われらが神よ。あなたの著作はすべて60億超のビリオンセラーになりました。2453の言語に翻訳されて、シナゴーグにも教会にもモスクにもホリデイ・インにも常備されてます。実際のところタイトルに『バイブル』とさえ入れておけばそこそこ売れたりするんで助かってますよ、『バーテンダーズ・バイブル』とかね。しかしあなた自身の著作は1400年前は書かれたっきりでしょう。このまま引退するんですか」「モルモンの書を忘れる勿れ」「いや、あれはまじめに書いてないでしょ」

「主なる神よ、あなたはわたしの若い時からのわたしの望み、わたしの頼みです」「わたしは常にあなたをほめたたえます」

そんなふうに讃えられると、もりもり、創世をやっていた頃の執筆欲が湧いてきて、再びのベストセラーをねらって筆を取り書いたのがこの『終約聖書』である、ありがたく読め。……みたいな感じで始まる。


御本の中では、イスラム教にも触れられている。他の章はchapterなのに、イスラム教のとこだけごていねいにsuraとなっている。

1. あなたがたに言っておく。わたしと預言者ムハンマドとのかかわりについて、ムハンマドに下した啓示コーランについて、偉大なるイスラム教について。それはわたしが三番目に作った宗教である。
2. そう、イスラム教について。
3. イスラム。うむ、イスラム。そう、イスラム。
4. 信者が15億超えてるって知ってた?
5. 超えてるんだよ。うん。
6. メジャーな分派にスンナ派とシーア派があるって知ってた?
7. あるんだよ。うん。……(親指をこすりながらしばしの沈黙)
8. あなたがたに言っておく。この章を書くにあたって、わたしは大いなる不安を感じている。
9. もちろん、わたしは神である。アッラーである。全知全能である。だがそのわたしですら、近頃はイスラムについて何ごとか言うのに細心の注意を払わざるをえない。
10. わたしはときどき、天から地を見下ろしてあれは出来のいいモスクだ、とかあのイマムは見所がある、とか口にする。
11. するとそれを耳にしたヘブライの族長たちやキリストの殉教者たちが互いに目配せをしてそわそわし始める。
12. するとそれを敏感に察知した品行方正なムスリムたちも落ち着きをなくしてそわそわし始める。
13. 緊張感が行き渡ったところで誰かが、だいたいの場合ヤコブなんだが、咳払いするふりをして「アルカイダ」などと小声で言う。
14. たちまちムスリムが「なんて言った?!」とかみつく。「『アルカイダ』とはどういうつもりだ」。ヤコブが違うちがう、おれはただ「オレアイダ」と言ったんだ、とごまかす。誰が冷凍ポテトのはなしをしているんだ。あいつの空気の読めなさ加減はほんものだ。


「スーラ」は1から7まであって、最後の部分で「これ以上書き続けるとわたしのためにわたしの名においてわたしに対して聖戦を布告するやつが出現しかねないのでこのへんにしておくが、」と前置きしてオサマ・ビン・ラーディンと9/11のハイジャッカーたちについて触れている。

「人々のほとんどは、彼らは地獄の底で永遠に焼かれるに違いないと信じているだろう。だが少数のダイ・ハードな(あるいはダイ・イージーなと言うべきか)ファンダメンタリストたちは、彼らは天国で72人の処女とまったりたのしく過しているに違いないと信じているかもしれない。どちらでも好きな方を信じるがいい。死後のことについては死後の楽しみにしておけ。この話題を振ったのは、単にわたしの個人的な興味からに過ぎない。わたしが与える祝福にはいろいろとあるが、その中でいちばんの祝福が72人の処女だというのか。殉教までして得たいのがそれなのか。いや、好きにすればいいとは思うが72人か。いくらなんでも多過ぎやしないか。いや、もしも、もしものはなしだが、例えばわたしが受肉したごくふつうの異性愛者の男なら、天国で72人の女が待っていると言われればそれは確かにうれしい。しかし何も全員が全員処女でなくても。いや、処女もいて構わないが。半分くらいは処女でなくてもいい。いや、処女でない方がいい。さらにその半分くらいはプロフェッショナルの方が」


著者のジェイバーバウム、もとい「神」は万人に平等。なので『終約聖書』ではイスラム教に限らずユダヤ教もキリスト教も、ヒンズー教もマルクス主義者も無神論者もぜんぶこんな調子で平等にいじられている。

仏教は別格。

「憎い。憎い。憎い。仏教が憎い。仏陀が憎い。チベタンベルが憎い。人生はイリュージョンだと?ふざけるな。スピリチュアルなゴールを目指すだと?クレイジーなこと言ってんじゃねえ。いいですか。この世はdo-er(なんかやるひと)のためにあるんです。be-er(いるだけのひと)のためにあるんじゃないんです。be-erはカウチに寝そべってフットボール観戦するにはいいかもしれないが、人生それだけで終わったらじゃまずいだろうが」

別のところに書いたのを、こちらに保存しました。