先週、こんな記事を目にしました:
息がぴったり、ISISと米共和党 (Newsweek)
2016年米大統領選の最も熱い争点の1つは、イスラムの名を借りたテロや虐殺とどう戦うかだ。オバマ大統領とヒラリー・クリントン前国務長官は、こうした暴力をイスラム的と呼ぶことを拒否。イスラム教徒はISISやアルカイダの仲間ではなく犠牲者だと主張する。
一方、大統領選に出馬表明している共和党議員らは、ジハーディスト(聖戦士)の暴力とイスラム教を別物とする見方は青臭くて意気地がなく危険だと主張する。「テロリストをテロリストと呼べる最高司令官がアメリカには必要だ」と、ウィスコンシン州知事のスコット・ウォーカーは言う。またマルコ・ルビオ上院議員は、かつてソ連を「悪の帝国」と呼んだレーガン元大統領のような強い姿勢を誓う。
”ソ連の政治的経済的な抑圧に対する批判をレーガンが一瞬もためらわなかったのと同じく、中東の惨劇の元凶を名指しすることをためらってはならない。その元凶はイスラム過激派だ。”
危険かどうかは知りませんが「青臭くて意気地がな」いというのは、だってある意味ではリベラルの、それが「美徳」なのだからして。この場合ほめ言葉として受け取っておけばよろしいのではないか。
などと思いながら読み進めたところ、「ISISは先週、バグダディの演説ビデオを公開したが、彼は共和党の強硬派と同じことを言っている」として、要点がみっつ並べられていました:
1.これはイスラム教徒と非イスラム教徒の戦いだ 30万人の兵しか持たないISISは、世界戦争どころか地域戦争も戦えない。だからこそ、人々の宗教的対立を煽ってより広い支持を集めようとしている。バグダディにとっては、共和党がイスラムを敵と触れ回ってくれるのは願ったりかなったりだ。
2.共存は不可能 イスラム教は欧米の価値観と共存できるのか。多くの保守派の活動家や政治家はできない、と言う。この信念もバグダディにとって好都合。彼は二者択一を求める。「ユダヤ教徒やキリスト教徒はあなたが改宗しない限りあたなママを受け入れない。あなたが自らの宗教に背を向けるまで、戦いを挑み続けるだろう」
3.イスラムは戦争の宗教だ 共和党の大統領選有力候補ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事はイスラム世界の「一部」は「平和の宗教ではない」と言う。バグダディも同じ意見だ。「イスラムが平和の宗教だったことはいまだかつてない。イスラムは戦争の宗教だ。預言者は アラーのみが神となる日まで戦争することを命じられた。彼は一日たりとも戦争に飽きることはなかった」
Newsweek日本語版ではここまでしか紹介されていませんでしたが、いかにも尻切れとんぼなのでSlateに掲載されている元記事”Preaching to the Choir”を参照したところ続きがありました。「4.アメリカはムスリムの民間人が犠牲になろうが市民的自由を侵害されようがおかまい無しだ」。
Baghdadi says followers of Islam should stand with him because they can’t trust Western governments to protect their rights or spare their innocents. He warns Muslims:
And if the Crusaders today claim to avoid the Muslim public and to confine themselves to targeting the armed amongst them, then soon you will see them targeting every Muslim everywhere. And if the Crusaders today have begun to bother the Muslims who continue to live in the lands of the cross by monitoring them, arresting them, and questioning them, then soon they will begin to displace them and take them away either dead, imprisoned, or homeless.
バグダディはイスラムに従う者ならば彼と共に西側政府に立ち向かうべきである、なぜなら彼ら(ムスリム)の権利を保護することもなく、罪無き者を庇護することもない西側政府は信用に値しないからだと言う。彼はムスリムたちにこう警告する。「十字軍どもは(略)」で、その後に続けて
Republicans seem determined to prove Baghdadi right. A few years ago, Rubio, Fiorina, Newt Gingrich, and other GOP leaders denounced peaceful Muslim pluralists for proposing to build a mosque in Manhattan near the site of the 9/11 attacks. Last weekend in South Carolina, Santorum complained that most of the planes we’re flying over ISIS territory “come back not having dropped their ordnance.” Apparently, Santorum thinks the military is too careful in its selection and examination of targets.
数年前、マンハッタンの9/11で倒壊したWTC跡地近くにモスク建設計画が立ち上げられた際には共和党のマルコ・ルビオ氏、カーリー・フィオリーナ氏、ニュート・ギングリッチ氏が非難声明を出してたよね。先週はサウスカロライナのサントラム氏がISISの支配地域上空を飛んでる米軍機が空爆をしぶってると不平を言っていたよね。これじゃあまるっきりバグダディの言うとおりなんじゃないの?という、1から3までとは違い4は具体的なはなしでした。なぜこの部分をけずったのか、ちょっと意味が分からない。
1については、「イスラム教徒と非イスラム教徒の戦い」っていうのは実際その通りというか。少なくともバグダディとその仲間たちの側からすれば彼らだけが正しいイスラム教徒もしくは正しくイスラムを実践しているイスラム教徒なわけで。宗教的対立を煽るのが目的かというとそういうわけでもなくて、対立するにあたって自分たちの立ち位置を正当化するのに宗教でパッケージしてみたら結果として宗教的対立っぽくなった(そりゃそうだ)!みたいな感じかと。
でも「イスラム教徒はISISやアルカイダの仲間ではなく犠牲者だ」というような「主張」などもわりとナチュラルに対立を煽ってると言えばいえると思いますし、考えようによってはこちらの方が深刻な気がしなくもないです。2についてはちょっと考えた方がいいと思います。「欧米の価値観」というのが何を指すのかちょっと分からないし、欧州の事情もよく知りませんが、米国に限っていうなら妊娠中絶や同性婚を規制したい共和党を支持するイスラム教徒は少なくありません。
3については「ユダヤ教もキリスト教もいっぱい戦争してたじゃん」と指摘する同筆者のひとつ前の記事、“ISIS Isn’t the New Soviet Threat”(「ISISは新たな『ソビエトの脅威』じゃない」)を読んでおけばいいことにしておきます。
1から3までについては、まあ、日常生活でこういう話題をふられても自分だったら「考え方にはいろいろありますよね」で流してしまうかもしれない。かもしれない、というかだいたいそうしているように思う。こういう本質論っぽいのはにがてなんです。
すごうくどうでもいいですが、「バグダディ」と書くとなんだかラッパーみたい。そしてPark51については同じNewsweekにこんな記事を見つけた。あれってもう5年前の論争なのか。はやいなあ。