「トライプのスープ」の項を読んだときにアリ・エシュレフ・デデという人名が出てきました。19世紀のエディルネでメヴレヴィーヤの修道場のシェイフをつとめていた方とのこと。
“Sufi Cuisine”には「アリ・エシュレフ・デデのレシピ集から選んだ料理」と題された章があります。
本書の第4章ではアリ・エシュレフ・デデのレシピ集に収録された料理を忠実に再現しました。ヤフニやヘルヴァにはじまり、メロンのドルマ(詰めもの料理)や金箔を重ねたカダユフにいたるまで、13世紀から19世紀にわたり受け継がれてきたメヴレヴィーヤ料理を幅広くご紹介するためです。
このメロンのドルマというの、「オレンジくらいの大きさの、未成熟のメロン」にひき肉、玉ねぎ、アーモンド、松の実、米などを混ぜた詰めものをし、シナモンやカイエンヌで風味をつけてオーブンでむし焼きにするという料理なのですが……、何とかして「オレンジくらいの大きさの、未成熟のメロン」を入手しなくてはならない。
でもその前に今ここで手に入るもので作れる何かないかとページをめくっていたところかぶが出てきました。ひとつは「かぶのピクルス」、もうひとつは「かぶと細切れ肉の煮込み」。
ルーミー語録〈イスラーム古典叢書〉 (岩波オンデマンドブックス)
……あるいはまた、黄金で作った鍋で蕪菜(かぶらな)でも煮るようなもの。
その金の一粒で普通の鍋なら千個も買えるのに。
かぶと細切れ肉の煮込み
かぶは、コンヤではめったに使われません。上記の対句は、当時においてもかぶが格下の野菜とみなされていたことを示しています。同時にコンヤでは、かぶには一種の治癒力があると信じられており、「たとえかぶを食べないにしても、一年に一度はかぶ畑の中を歩いておきなさい」という言い伝えがあります。かぶを料理するときには、わたしたちはカイエンヌとトマト・ピューレを加えます。
[4人分]
ラムまたはマトン 250g、または1カップ 小さな細切れにする
玉ねぎ 1個 みじん切りにする
羊の尾脂 大さじ1 杯
澄ましバター 大さじ1杯
かぶ 1/2 kg、または1lbと2oz
熱湯 600ml、または2と1/2カップ
塩
[作り方]
肉は洗い、シチュー鍋に入れる。肉からにじみ出た汁気が肉に戻るまでいためる。脂と玉ねぎを鍋に加え、軽く色づくまで火を通す。肉をいためている間にかぶをむき、丸くスライスする。洗ったら水気をきって鍋に加え、1、2回かえして焼き上がった肉となじませる。熱湯と塩を加えてふたをし、煮立ちはじめたら弱火にする。汁気がなくなるまで約1時間ほど煮る。皿に盛りつけ、ブルグルのピラウを添えて供する。
あれ?澄ましバターはどこに消えたんだろう。まあいいか。仕上げに足せばいいか。ブルグル(ひきわり小麦)のピラウについては別ページに作り方がありました。
ブルグル・ピラウ
ブルグル・ピラウはコンヤやアナトリアで広く食べられています。以下にご紹介するプレーンなブルグル・ピラウの他に、コンヤでは熱した油で玉ねぎとトマト・ピューレを炒めてからミート・ストックとブルグルを加える作り方があり、これもとてもおいしいものです。羊の頭を使ったピラウなどは非常にデリケートな一皿です。羊の頭が手に入らないときには、大さじに1杯の澄ませた羊の尾脂を加えるとかなり近い味を再現できるというのがコンヤの老婦人のアドバイスです。本書でも紹介している「ケッレ・ケバブ」や、「羊の頭のケバブ」などを参考になさってください。
[4人分]
ミート・ストック 600ml、または2と1/2カップ
塩 大さじ1/2杯
ブルグル 300g、または1と1/2カップ
澄ましバター 200g、または1カップ
ヨーグルト、またはアイラン
[作り方]
ミート・ストックに塩を加えて沸騰させる。ブルグルを加えてふたをする。強火で3分、中火で5分煮立ててから弱火にし、ブルグルがストックを完全に吸い込み、表面にぽつぽつと小さな穴ができるまで火を通す。澄ましバターをフライパンで熱し、ブルグルの表面にまわしかける。再びふたをして弱火よりもさらに火を弱め、20分ほど蒸す。皿に盛りつけ、ヨーグルトまたはアイランを添えて供する。
今すごくいいことを思いついた。コンヤの老婦人をひとり入手すれば「羊の尾脂」「オレンジくらいの大きさの、未成熟のメロン」「ベイシェヒル湖、またはセイディシェヒル湖で穫れた新鮮な鯉」といった問題が何もかもすべて解決するのではないか。
コンヤの老婦人の入手方法についてはおいおい考えるとして、なるべくなるべく御本に従いすなおに言われた通りに作るべきだとは思います。しかしバター200グラムはさすがに多すぎじゃないか。これはコンヤの料理が、というよりもセルチュク料理がバターたっぷりだからなのだろう(一度「パンのケバブ」というのをごちそうになったことがありますが本当にすごかった。表面がかりかりに焼けたパンを噛むとあついバターがじゅっとにじみ出てくる)。オリーブ油を食用に使いはじめたのはいつごろからなのだろう?『マスナヴィー』にしても「オリーブ油」と言えばそれは「ランプの明かり」と対になっている。そして料理に使うのはバター。と、羊の尾脂。
「たっぷりと脂のついた羊の尾」といったフレーズは以前から目にしてはいましたが、いったいどういう何なのかとても気になってはいた。そこで検索してみたところ「脂尾羊」というのがいるのですね。すごい。すごい。こんな都合のいいいきものがいるなんて。
しっぽではないけれど、羊の脂なら冷凍庫にあります。これをさくさく削って使いました。ブルグルはカルディでも売られている丸粒のものを。で、こんな感じに。
ブルグルおいしい。バターを控えめにして良かった。かぶおいしい。お肉を少なめにして、かぶをもっと増やしてもいいかもしれない。いや、もういっそお肉なしでもいいかもしれない。羊の脂+バターの組み合わせにはそのくらいの万能感がある。
かぶの料理のもうひとつはピクルスで、こちらが第4章におさめられた「アリ・エシュレフ・デデのレシピ集から選んだ料理」にあたります。
かぶのピクルス
「バハー・ヴェレドの弟子にあたるハズレッティ・サイーディー・スィルダンどのは、ピクルスが食べたくなると常にこう口にした。『かぶのピクルスは体に良い。そしてすべてのピクルスのうち、かぶのピクルスはいちばん良いピクルスだ。なまで食べればかぶは視力にもよい』。ハズレッティ・サイーディー・スィルダンどのはとりわけ医学の造詣深い人物であった。」
[材料]
かぶ 1/2キロ、または1ポンドと2オンス
水 1リットル、または4カップ
塩 大さじ1/2杯
ひよこ豆 5-6粒
ワイン酢 2と1/2リットル、または10カップ
ペクメズ(ぶどうのシロップ) 大さじ1杯
塩 大さじ1/2杯
[作り方]
へたを取り、洗ったかぶをスライスする。水に塩を加えて沸騰させ、かぶを加える。再び沸騰したら火を弱め、2分ゆでてから湯切りする。ひよこ豆を洗い、ピクルス用のジャーに入れる。湯切りしたかぶをジャーに加える。酢とペクメズ、塩を混ぜたものをジャーに注ぎ入れ、かぶをすっかり沈ませる。できあがるまで、3週間ほど涼しく乾燥した場所にジャーを保管する。
ペクメズはドアルというお店で購入できました。
ワイン酢ってあのすごく酸っぱいやつを?しかも2リットルも?と思ったのですが、ワイン酢にもいろいろあるのね。大量に使うしおやすいのないかな、と探したらいろいろとありました。でもかぶ1/2キロ(だいたい5玉くらい)と酢2リットルが問題なくおさまるジャーなんてうちにはなかった。でもでも、なんとかかんとかなりました。ひとつだけ、後から気になっているのがひよこ豆。乾燥ひよこ豆でだいじょうぶだったんだろうか。もう入れちゃったけど。
3週間後が楽しみです。
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ところで、約2束ぶんあったかぶの葉はこうなりました。