ウエルベックの『服従』を読んで一言

本屋さんでうろうろしていたら、あっちの方にどこかで見たことのある誰かが大量に積まれていたのです。

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この表紙。どこかで見たことがあるんだけど、どこだったっけ。手にとって3秒くらい考えて思い出しました。あいつです。ほら、あの。『ヘル・レイザー』とかいうホラー映画に出てきたあの。何ていいましたっけ、あの魔導士にちょう似てる。何ていう名前だったかな、うーん、ほらあの、えーと、思い出せない。

一冊、連れて帰ってきました。

面白かったです。最初の2、30ページはどうにもかったるくて「これ読み終われるかなあ」などと少し心配だったのですが、途中からなぜだかふと「筒井康隆コンバータ」のスイッチが入ってしまって。脳内で作動し始めたんですよね。そうしましたらみるみる面白くなってきちゃって。もう何をどう読んでも、あたかも筒井康隆が書いているかのように読めてしまうんですよ。主人公のフランソワの一人称も「ぼく」じゃなくて「おれ」に変換されちゃうし。誰が登場しようがどんな場面だろうが、その荒唐無稽っぷりしか目に入らなくなって、どんどん笑い袋がやぶれたみたいになってきて、後半は大爆笑に次ぐ大爆笑で無事に読み終わりました。あーおもしろかった。筒井康隆はいつも本当にすばらしい作家ですね。おかげで佐藤優の芝居がかった解説まで一文一文がほんと楽しめた。違う。

そのようなわけで御本そのものはたのしく読めましたし、あらすじはあちこちで紹介されているので省略するとして、

今週の本棚:池澤夏樹・評 『服従』=ミシェル・ウエルベック著(via 毎日新聞)
評・松山巖(評論家・作家)『服従』 ミシェル・ウエルベック著(via 読売新聞)

「シャルリー・エブドのテロ当日に発売され、世界を揺るがす衝撃のベストセラー、日本上陸!!!」という帯と、そこにぶらさがった(作家)(批評家)(作家)の皆さんであるとかそのコメントであるとかが、非常にこう。何と申しますか、そういう本書を取り巻く全体的な絵図面に含まれる諸々の成分についてはちょっと何だか別件として考える時間を自分の中で設けたいと思いました。「シャルリー・エブドのテロ当日」というのが沢山の人の命日であるというのも忘れないようにしたいと思います。っていうかエクスクラメーション・マーク、3つもつける必要ありましたか???

帯は背表紙側には「自由と民主主義をくつがえす予言的物語」とありますけど、やーまー。大丈夫なんじゃないでしょーか。主人公、いろいろと苦悩しているふうなことを言っていますけれども、どんな述懐よりもとにかく女の子のおしりが見られなくなった!っていう嘆きがいちばん切実に響いて聞こえるっていう(「女性の尻を眺めるという、最低限の夢見る癒しもまた不可能になってしまったのだ」)、わたしからすればさすがフランス紳士、としか言い様のない人物だし。

登場人物のひとりであるベルギー出身の某(イスラム改宗者)が執筆した「百二十八ページあって、たくさんの挿絵がつ」いているイスラム解説書、というのは、ちょっと読みたくなりました。ベルギー出身の某いわく「三百万部」売れた、ということになってます。読者の属性の内訳が知りたいですね。

あと御本に登場する日本の面影っていうのが「カミカゼ」と、ケータリングの「スシ」でした。

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