ある晩のことです。私は自分の寝室の安楽椅子にもたれて、インドの女たちが置かれている状態についてぼんやりと考えていました。まどろんでいたのかもしれません。けれど私の記憶の中では、確かに私は目覚めていました。月明かりの夜空にまるでダイヤモンドのような無数の星が、きらきらと輝いているのをはっきりとこの目で見たのです。
突然、一人の婦人が私の前に現れました。彼女がどうやって入ってきたのかはわかりません。私は彼女を、友人のサラ姉さまだろうと思いました。
「おはよう」、サラ姉さまは言いました。星降る夜に、朝の挨拶だなんて。私は心の中で、ひそかに笑いました。それでも私は彼女に応じて、「ごきげんいかが?」と言いました。
「とってもいいわよ、ありがとう。外に出て、私たちの庭を見てみましょうよ」。
私はもう一度、開かれた窓越しに月を見上げました。そしてこの時間なら、外に出かけても害はないだろうと思いました。外働きの男たちは、夜は早いうちから眠りについてしまいます。おかげでサラ姉さまと、楽しく散歩ができるというわけです。
ダージリンにいた頃の私は、サラ姉さまと散歩に出かけたものでした。そこの植物園で私たちは、手に手を取って歩き、心も軽やかにおしゃべりをしました。サラ姉さまは、たぶんそうした植物園に私を連れ出してくれるのだろう。そう思った私は、すぐに彼女の申し出を受け入れ、彼女と一緒に出かけることにしました。
歩いてみると驚いたことに、それはよく晴れた朝でした。町はすっかり目覚めていて、通りは人々で賑わっており、活気にあふれていました。こんな白昼に堂々と通りを歩いているのかと思うと、とても恥ずかしく感じましたが、男の姿は一人として見かけませんでした。
通りすがる人々の何人かが、私に向かって冗談を飛ばしてきます。私には、その人たちの言葉は分かりませんでしたが、絶対に冗談を言っているに違いないと感じました。私は友人に尋ねました。「あの人たちは何と言っているの?」。
「彼女たち、あなたのことをとても男らしいと言ったのよ」。
「男らしいですって?」、私は言いました。「どういう意味なの、それ?」。
「まるで男みたいに恥ずかしがり屋で内気だ、っていう意味よ」。
「男みたいに恥ずかしがり屋で内気ですって?」。それは確かに大した冗談です。一緒にいたその人が、サラ姉さまではなく見知らぬ赤の他人だったことに気づき、私はとても不安になり始めました。ああ、私はなんて愚かなのでしょう。こんな女の人を、昔からの大切な親友であるサラ姉さまと間違えるだなんて。
私たちは手をつないで歩いていましたから、彼女には私の指のふるえが伝わっていました。
「どうしたの、あなた?」、彼女はやさしくそう言いました。「何だか、落ち着かないの」と、私はむしろ謝るような口調で言いました。「パルダーの中で生きる女としては、ヴェールも無しに歩き回るのには慣れていないの」。
「男に襲われるかもしれないなんて、ここでは怖がる必要はないわ。ここはレディ・ランド、罪と害から解放された土地。ここを支配しているのは、女自身の美徳だけよ」。
いつしか私は、風景を楽しんでいました。それは本当にみごとなものでした。ヴェルヴェットのクッションかと思えば、それは緑の芝生でした。やわらかな絨毯の上を歩いているかのように感じて見下ろせば、道は苔と花で覆われているのでした。
「なんてすてきなの」、私は言いました。
「気に入った?」、サラ姉さまがそう尋ねました。(私は彼女を、これまで通り「サラ姉さま」と呼ぶことにしました。そして彼女も、私の名を呼んで語りかけ続けてくれました。)
「ええ、とっても。でも私、こんなにやわらかくてかわいい花を踏むのは好きになれない」。
「心配しないで、愛するスルターナ。それは通りに咲く花、あなたに踏まれても大丈夫よ」。
「どこもかしこもお庭みたいね」、私は感嘆してそう言いました。「どの植物も、とてもみごとに手入れされているわ」。
「あなたのカルカッタだって、地元の男たちがそうと望みさえすれば、ここよりも素敵な庭になるかもしれない」。
「あの人たちは、他にやることが沢山あるのに庭いじりに精を出すなんて無駄だと思うでしょうね」。
「せいぜい、その程度の言い訳しか思いつかないんでしょうね」、彼女は笑ってそう言いました。
男たちがどこにいるのか、私はがぜん興味が湧いてきました。歩いている間に何百人もの女たちに出会いましたが、男はただの一人として見かけませんでした。
「男の人たちはどこにいるの?」、私は彼女に尋ねました。
「彼らにふさわしい場所、彼らがいるべき場所にいるわ」。
「ねえ、教えて。『ふさわしい場所』ってどういう意味なの?」。
「ああ、うっかりしていたわ。あなたはここに来るのは初めてだから、私たちの習慣も知るわけがないわね。ここでは男たちは、部屋の中に閉じ込められているわ」。
「まるで私たちが、ゼナーナ(婦人部屋)の中に閉じ込められているみたいに?」
「その通りよ」。
「なんておもしろいの」、私はたまらず大笑いしてしまいました。サラ姉さまも笑いました。
「でもねえ、スルターナ。無害な女を閉じ込めて、男は野放しのままだなんて、なんて不公平なことかしら」。
「あら、どうして?私たちがゼナーナから出るだなんて危ないわ、だって私たちは生まれつき弱いんですもの」。
「そうね、通りを男がうろついてる限り安全じゃないわ。野生のけものが市場をうろつくのと同じよ」。
「本当にそうね」。
「もし狂人が施設から抜け出して、男や馬や、他にも色々な生きものにありとあらゆる悪さをしたら、あなたの地元の男たちはどうすると思う?」。
「きっとつかまえて、施設に戻そうとするでしょうね」。
「その通りよ!だったら正気の人を施設の中に閉じ込めて、狂人を野放しにするのが賢いやり方だとは思わないでしょう?」。
「もちろん、思わないわ!」、私は陽気に笑いました。
「実際のところ、あなたの国で行われているのがまさしくこれなのよ!際限なく悪さをする男、少なくともそれができてしまえる男は野放しで、罪もない女がゼナーナに閉じ込められているんだわ!しつけもなっていないのに外をうろつく男なんて、どうして信用できるというの?」。
「私たちには社会をとりしきるすべもなければ、声をあげることもできないのよ。インドでは男が主人で支配者で、権力も権利もすべて独り占めして、女たちをゼナーナに閉じ込めているわ」。
「どうしてあなたはあなた自身を、閉じ込められるがままにさせておくの?」。
「だって男は女よりも強いから、どうしようもないわ」。
「ライオンは人間よりも強いけれど、人間を支配することはできないわ。あなたはあなた自身に対する義務を果たしてこなかったし、あなた自身のためになることからは目を閉ざしてきた。そうやって、あなたが生まれ持っていたはずの権利を失ってしまったのよ」。
「そうは言っても、ねえサラ姉さま、もしも私たちが自分のことを全部やってのけたとしたら、男の人たちは何をすればいいの?」
「悪いけど、何もするべきじゃないわ。男にふさわしいことなんて何ひとつないのよ。捕まえて、ゼナーナに放り込んでおくくらいしかできないわ」。
「でも、あの人たちを捕まえて四方を囲んだ壁の中に放り込むなんて、そう簡単にいくかしら?」、私はそう言いました。「それに、もしもそれができたとしたって、他のことはどうなってしまうの −− 政治とか、商売とか −− それも一緒にゼナーナの中に持ち込むの?」。
サラ姉さまはそれには答えず、ただ甘やかなほほえみを浮かべるだけでした。もしかしたら、井の中の蛙のようにものを知らない人間とは議論をしても意味がない、とでも思われてしまったのかもしれません。
その頃には、私たちはサラ姉さまの家に着いていました。サラ姉さまの家は、ハートの形をした美しい庭の中に建てられていました。波形のトタン屋根のついたバンガローです。知る限りどんな贅沢な建物よりも心地よく、素敵な家でした。それがどれほどきちんと整えられ、どれほどきれいに仕上げられ、またどれほど趣味よく飾られていたか、言葉では言い尽くせないほどでした。
私たちは並んで座りました。彼女は客間から刺繍飾りをひとつ持ってくると、そこに新たな意匠を縫いつけ始めました。
「編み物や針仕事のやり方は知っているの?」。
「ええ。ゼナーナでは、やれることが他に何もないんですもの」。
「ここでは、ゼナーナにいる人たちに刺繍なんて任せられないわ!」、彼女は笑って言いました。「男たちときたら、針穴に糸を通すだけの我慢強さも持ち合わせていないんだもの!」。
「これ、全部あなたが自分で作ったの?」。お茶用の小さなテーブルにかける刺繍入りのクロスの数々を指して、私はそう尋ねました。
「そうよ」。
「こんなに沢山のことをやるなんて、どうやって時間を作っているの?仕事もしないといけないんでしょう?違うの?」。
「そうよ。でも、一日じゅう研究室にいるわけじゃないわ。二時間もあれば、仕事なんて終わらせられるもの」。
「二時間ですって!どうやってこなしているの?私たちの土地では役人たち −− たとえば市長とか −− だって、毎日七時間は働いているわ」。
「あの人たちの働いているところ、私も見たことがないわけじゃないわ。あなた、あの人たちが七時間ずっと働いていると思ってるの?」。
「そうに決まってるわ!」。
「いいえ、違うわ。かわいいスルターナ、あの人たちは働いてなんかいないわ。たばこをふかして、ぐずぐずと時を稼いでいるだけよ。仕事の合間に、葉巻を二本か三本はふかしてる。仕事については多くを語るけれど、実際にやるのはほんの少しだけ。葉巻一本が燃え尽きるのに半時間、一人あたり毎日十二本の葉巻をふかして過ごすとしたら、ほら。わかるでしょう。毎日六時間、たばこをふかしてただただ無駄に過ごしているのよ」。
私たちは色々な話題について語り合いました。そしてここではどんな種類の伝染病にも悩まされることもなく、私たちのように蚊に刺されることもないというのが分かってきました。レディ・ランドでは、ごくまれな事故を除けば、命を落とす若者が誰もいないと聞いて、私はとても驚きました。
「私たちの台所を見てみる?」、彼女は私に尋ねました。
「喜んで」、私はそう言って、一緒に見に行きました。もちろん私が行く前に、男たちはそこから下がるよう命じられていました。台所は、美しい菜園の中にしつらえられていました。あらゆるつる草、あらゆるトマトの苗木が、それだけで飾りになっています。台所には、煙も煙突もありませんでした −− とても清潔で明るく、窓は花の園に彩られていました。石炭や火は、影も形も見あたりません。
「どうやって料理をしているの?」私は尋ねました。
「太陽の熱で」、彼女はそう言うと同時に、集められた太陽の光と熱を通す導管を指さし、私に教えてくれました。それからちょっとした料理を作り、そのやり方を見せてくれました。
「どうやって、太陽の熱を集めたり蓄えたりしているの?」私は驚き、彼女にそう尋ねました。
「それなら、まずは私たちの過去の歴史を少しだけお話しさせてね。三十年前のことよ。私たちの今の女王は、十三歳で王座を継承したの。彼女は名ばかりの女王で、実際に国を支配していたのは首相だったわ。
私たちの良き女王は、科学を大変に好まれる方だった。そしてすべての女性に教育を受けさせるようにと、ご自分の国の全土にお命じになったの。そうしたわけで、政府によって多くの女学校が設立され、支援されるようになり、教育が女たちの間にはるか遠く、広くまで行き渡るようになった。それから早婚も禁じられたわ。二十一歳以下の女を結婚させることは許されなくなったの。言っておくけれど、そうした変化が起こる以前の私たちは、厳格なパルダーの下に置かれていたのよ」。
「立場が逆転したのね」、私は笑って口をはさみました。
「それでも隔離には違いないわ」、彼女は言いました。「数年もすると、私たち専用の大学が設立されたわ。男子禁制のね」。
「私たちの女王がお住まいの首都には、二つの大学があるの。そのうちひとつが、すばらしい気球を発明したわ。沢山の導管が取りつけられているのよ。そうやってつないだ気球を、雲海よりも高く浮かべて、大気から好きなだけ水を引き出せるようになったの。大学の人たちが絶えず雲から水を引き出すようになるにつれ、曇り空になることもなくなったわ。独創的な女学長のおかげで、こうして雨も嵐も起こらなくなったのよ」。
「まあ、そうだったのね!ここに泥土がない理由が分かったわ」、私は言いました。けれど私には、どうしたら導管に水を溜めることができるのかが分かりませんでした。それがどのようにして成し遂げられるのか、彼女が説明してはくれたものの、私の科学の知識はとても限られており、彼女の理解に追いつくことはできませんでした。それでも彼女は話を続けました。
「これを知ったとき、もうひとつの大学にいる人々はものすごく嫉妬したわ。そしてそれよりも、もっと特別なことをやろうとしたの。こうして、好きなだけ太陽の熱を集めることのできる機械が発明されたの。この人たちは熱を蓄えて、他の人々にも必要な分だけ分け与えるようにしたわ。
女たちが科学的な研究に携わっている間、この国の男たちはせっせと軍事力を拡大していったわ。女たちの大学が大気から水を引き出したり、太陽から熱を集めることができるようになったことを知っても、ただあざ笑うだけだった。そしてそのすべてを、『感傷的な悪夢』と呼んだのよ!」。
「あなたたちが達成したことは、本当にとても素晴らしいわ!でも教えてちょうだい、どうやってあなたの国の男たちをゼナーナに入れたの。最初は罠にかけたりしたの?」。
「いいえ」。
「彼らが自由や、開放された生活を自分から放棄して、四方を壁で囲まれたゼナーナに自分から閉じ込められようとするとは思えない。強制されたに違いないわ」。
「そう、その通りよ!」。
「でも誰が?きっと、女戦士たちがいたのね?」。
「いいえ。武力ではないわ」。
「そうね、そんなはずがないわね。だって男は女よりも腕力があるもの。だったら、どうやって?」。
「頭脳よ」。
「頭脳だって、女よりも大きくて重いのよ。そうでしょう?」。
「そうね、でもそれが何だっていうの?象だって、人間より大きくて重い脳みそを持ってるわよ。それでも人間は象を飼いならして、思い通りに働かせることができるわ」。
「まあ、その通りだわ。でもお願い、教えて。本当のところ、いったい何が起こったの?どうしても知りたいのよ!」。
「女の頭脳は、男のそれよりもいくらか回転が早いのよ。十年前、軍人たちが私たちの科学的な発見を『感傷的な悪夢』と呼んだとき、何人かの若い女たちは、そういう発言に対して何か言い返したがっていたわ。でもどちらの女学長も、彼女たちを引き止めてこう告げたの。言葉じゃなく、機会を捉えて行動で返すべきだと。そしてその機会は、遠からず訪れたわ」。
「なんてすてきなの!」私は心から手を叩き大喜びしました。「そうして今や誇り高き紳士たちの方が、感傷的な夢にひたっているというわけね」。
「その後まもなく、近隣の国からある人々が私たちのところへ避難してきたの。その人たち、何か政治的な罪を犯して困ったことになっていたのね。善良な治世よりも権力を重視していたその国の王が、私たちの心優しい女王に、その人たちを彼の役人に引き渡すよう頼んできたわ。彼女は断ったの、難民を見捨てるなんて彼女の主義に反することだったから。拒否されたことを理由にその国の王は、私たちの国に対して宣戦を布告したの。
私たちの国の軍人は、敵と相まみえようとたちまち勇み足で飛び出していったわ。けれど敵は、あまりにも強かった。私たちの兵士は勇敢に戦ったわ、それは疑いのないことよ。でもねえ、どれほど勇敢かどうかに関わりなく、その国の軍勢は日に日に、私たちの国に対する侵略を深めていったの。
男たちのほぼ全員が、戦争に出かけていったわ。たった十六歳の少年でさえ、家には残されていなかった。私たちの兵士のほとんどが殺され、残った者は追いやられ、敵はとうとう首都から二十五マイルのところまで攻め入ってきたわ。
この地を救うには何をすべきか、何人もの賢い女たちが女王の宮殿に集まり、助言をするための会議が開かれたわ。ある人たちは、兵士のように戦うことを提案した。女は剣や銃を持って戦う訓練は受けていないし、武器で戦うことにも慣れていないのだからと反対した人たちもいた。また別の人たちは、私たち女は絶望的にかよわい体をしていると言って残念がっていたわ。
すると女王がこう言ったの。『身体の力が劣るせいで、自分の国を救えないというのなら、頭脳の力でやってみましょう』。数分の間、誰もが沈黙していたわ。いと高き女王陛下は、こうも言ったの。『私の土地と名誉を失うくらいなら、私は死を選ばねばならない』。
その時よ。会議の間じゅう、ずっと黙って考えていたふたつめの大学(太陽の熱を集めていた方の大学よ)の女学長が、自分たちは何もかもを失っており、残された希望もほとんどない、と述べたの。でも彼女には、ひとつのある計画があったのよ。以前から試したいと思っていた、それもこれが最初で最後になるだろう計画がね。もしも彼女が失敗したなら、残された道は自ら死を選ぶことのみ。その場にいた全員が、たとえ何が起きようとも、自分からすすんで奴隷になるなど、決してあってはならないと厳かに誓ったわ。
女王は彼女たちに心から感謝し、女学長に彼女の計画を試してみるよう頼んだの。すると女学長は再び起立して、こう言ったの、『私たちが外へ出る前に、男たちはゼナーナに入らなくてはならない。私はこの祈りを、パルダーのために捧げましょう』。『ええ、もちろんですとも』、いと高き女王陛下はそうお答えになったわ。
翌日、女王は男たち全員に、名誉と自由のためにゼナーナに入り、休息するよう呼びかけたわ。傷つき疲れていた彼らは、その命令をむしろ恩恵と捉えたのよ!彼らはすっかり安心しきって、ひとことも文句を言わずゼナーナに入っていった。彼らは、この国には全く望みがないと信じ込んでいたのね。
それから女学長と、彼女の女学生たち二千人は戦場を目指して行進し、到着すると集めておいた太陽の光と熱のすべてを敵に向けて放ったの。
あまりにも大量の光と熱に、敵は耐えられなかった。焼き焦がすような熱にどうしていいか分からず、慌てふためいて逃げていったわ。逃げるときに置き去りにされた、戦争に使う銃や弾薬も、同じ太陽の熱で燃え尽きたの。それ以来、誰も私たちの国を二度と侵略しようとはしなくなったわ」。
「そしてそれ以来、あなたの土地の男たちもゼナーナから出てこようとはしないのね?」。
「もちろん自由になりたがってるわよ。警察の長官や地方の裁判官の中には、確かに軍人たちの失敗は、投獄に値するには違いない、とはいえ彼らは義務を怠ったわけではないのだから、処罰されるべきではない。それぞれが戻るべき職務に復帰できるよう祈る −− と、まあそんな嘆願を女王に送った者もいたわ。
いと高き女王陛下は、必要とあらば彼らを職務に復帰させないこともない、とほのめかす回覧状を送り返したの。そしてそれまでの間は、このまま留め置かれるべきだとも。今となっては彼らもパルダーに慣れて、隔離されることに不平不満をこぼすこともなくなった。だから私たちもこの制度を、『ゼナーナ(婦人部屋/女性隔離)』とは呼ばずに『マルダーナ(紳士部屋/男性隔離)』と呼んでいるわ」。
「でも警官や裁判官もなしに、窃盗や殺人が起きたときにはどうやって取り仕切っているの?」。
「『マルダーナ』という制度が確立されてからというもの、犯罪も罪悪もなくなっていっているわ。だから私たちには犯人をつかまえるための警官も必要ないし、犯罪を裁くための裁判官もいらないのよ」。
「それは本当に良いことだわ。もしも正しくない人がいたとしても、叱って簡単に済ませることができるというわけね。一滴も血を流さずに決定的な勝利を得たあなたたちからすれば、犯罪や罪人を一掃するのもそう難しいことではないわね!」。
「さあ、かわいいスルターナ。ここに座る?それとも私の客間に行かないこと?」彼女は私にそう尋ねました。
「あなたの台所ときたら、女王の私室にも劣らないんですもの!」、私は楽しげな笑顔でそう応えました。「でもそろそろおいとましようかしら。長いこと台所仕事から追い払われた殿方たちが、私のことを呪っているかもしれないわね」。私たちは、二人とも心から笑い転げました。
「家に帰ってお友だちに話してあげたら、どんなに喜び、驚くかしら。はるか遠くのレディ・ランドでは、男たちがマルダーナに閉じこもって子育てしたり料理をしたり、ありとあらゆる家事をやっている間に、女たちが国を治め、社会の問題を取り仕切ってる。それにその料理ときたら。料理することが純粋に楽しくなるほど簡単にできてしまうだなんて!」。
「ええ、そうね。あなたがここで見たことすべてを、お友だちにも話してあげてね」。
「ねえ教えて、あなたたちはどうやって土地を耕しているの。畑を育てたり、他にも色々と大変な手作業があるでしょう」。
「私たちは電気を使って畑を耕しているわ。電気は、他にもたくさんの重労働をこなすための動力をもたらしてくれるの。私たちは空中移動にも電気を使ってる。だから鉄道も、舗装された道路もここにはないのよ」。
「と、いうことは鉄道事故や交通事故もここでは起きないのね」、私は言い、それからこう尋ねました。「雨が降ったらいいのに、と思ったことはないの?」。
「『水の気球』が作られて以来、まったくないわね。ほら、大きな気球と、取り付けられた導管が見えるでしょう。あれのおかげで、私たちは必要なだけの水を引くことができるわ。それに、洪水や豪雨に苦しめられることもないの。自然からどれだけ沢山の恩恵を得るか、これだけでも十分忙しいのに、お互いに争っているひまも、怠けて過ごすひまもないのよ。私たちのいと高き女王は、とりわけ植物がお好きなの。この国全体をひとつの壮大な植物庭園に作り変えることが、彼女の最大のお望みなのよ」。
「それはすばらしいお考えだと思うわ。あなたがたは何を主食にしているの?」。
「果物よ」。
「暑い日には、どうやって国を涼しく保っているの?夏に降る雨は、天の恵みだと思っていたけれど」。
「暑くてたまらなくなったら人工の噴水を使って、地面に沢山の水をシャワーのように浴びせるの。それから、寒い日には太陽の熱で部屋を暖めるわ」。
彼女は、浴室を見せてくれました。屋根が開閉式になっており、屋根を動かして(それは箱の蓋のようでした)、シャワー菅の蛇口をひねるだけで、好きなときにいつでも入浴できるのです。
「あなたたちったら、何て幸運なのかしら!」、私は思わず叫んでいました。「何でもそろっているのね。質問してもいいかしら。あなたたちの宗教は?」。
「愛と真実に基づくのが私たちの宗教よ。お互いを愛し、お互いに絶対に真実であることが、私たちの宗教の義務なの。もしも誰か嘘をつく人がいたら、その人は……」。
「死刑になるの?」。
「いいえ、死刑にはならないわ。私たちは神の作った生きものを殺して楽しんだりはしないわ、特に人間はね。この土地を良い状態に保つためにも、嘘をついた人はここから立ち去り、二度と帰らないよう命じられるの」。
「犯人が許されることは決してないのかしら?」。
「心から悔い改めれば、許されるわ」。
「自分の親族以外の男性には、会ってはいけないことになっているの?」。
「神聖な親族以外はね」。
「私たちの場合、神聖な親族にあてはまる身内の輪がとってもせまいのよ。一番近いいとこでさえ、神聖ではないとされているわ」。
「でも、私たちの場合はそれがとても広いのよ。遠く離れたいとこだって、兄弟のように神聖だとみなされているの」。
「それはすごく良いことだわ。この土地を統治するのは純潔そのものなのね。私、あなたたちのすばらしい女王さまに会ってみたいわ。こういう法律のすべてを作り上げた、とても賢明で思慮ふかい方なのね」。
「いいわよ」、サラ姉さまは言いました。
それから彼女は腰掛けをふたつ、四角い一枚の板にはめ込みました。そしてこの板に、彼女はふたつのなめらかな、よく磨かれた球を取りつけました。その球がいったい何なのか、私が尋ねると、彼女はそれが水素球であること、これを使って重力を無効にすることなどを説明してくれました。そして持ち上げたい分だけの重量に応じて、それぞれ異なった球があるのです。それから彼女はこの空飛ぶ車に、二枚の翼のような羽根を固定しました。彼女が言うには、これは電気で動くのだそうです。私たちがゆったりとそれに乗り込んでから、彼女が把っ手にふれると、羽根が旋回し始め、それは徐々に、そしてますます速くなってゆきました。最初に六、七フィートほどの高さに浮いたかと思うと、私たちはもう飛んでいました。そして自分が移動していることを飲み込むよりも先に、私たちは女王の庭についていました。
友人が機械の動きを逆回りにすると、空飛ぶ車は下へ降りてゆき、地面に触れたかと思うと停止して、私たちは車を降りました。
私は空飛ぶ車から、女王が幼い娘さん(四歳になるそうです)と、お付きの女官たちと一緒に庭を歩いているのを見ていました。
「ハロー!ようこそ、いらっしゃい!」、女王が大きな声でサラ姉さまに挨拶しています。私はいと高き女王陛下に拝謁しましたが、どんな固苦しい儀式もなしに、心からの歓待を受けました。
私は彼女と知り合えて、とても嬉しく感じていました。会話の中で彼女は私に、自分の国と他の国々との交易を許可することには何の異論もない、と仰いました。「でもねえ」と、彼女は続けてこうも仰いました。「女たちがゼナーナに閉じ込められているような国では無理よ。私たちとの取引ができる国ではないんですもの。だって男たちって道徳がなっていないでしょう、だから取引したくないのよ。私たちは他の人たちの土地を侵略したりしないわ。ダイヤモンド欲しさに争うこともしないわ、たとえそれがコーイ・ヌールの千倍も輝いていたとしてもね。孔雀の羽根を飾った王座につく支配者を、羨ましいとも思わないし。私たちは知識の海を深くもぐるの。求めているのは、自然が私たちのために用意してくれた貴重な宝石よ。私たちはできる限り、大自然の贈り物を追求し続けるの」。
女王とお別れした後で、私は有名なあの大学を訪れ、それから彼女たちの工場や研究所、展望台などを見に連れて行ってもらいました。
こうして数々の名所を訪れてから、私たちは再び空飛ぶ車に乗りましたが、動き始めるとたちまち、どういうわけか私はすべり落ちてしまいました。落下に驚いて、私は夢から覚めました。そして目を開けてみると、私は相変わらず自分の寝室で、あの安楽椅子にもたれかかっていたのです!
原文:Sultana’s Dream by Rokheya Shekhawat Hossein (1880 – 1932)
原著者:ベーグム・ロキヤ(ウィキペディア)
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